日本ではマネージャー職の9割が、プレイングマネージャーであると言われています。プレイングマネージャーとは、プレイヤーとしての実務を担いながら、チームの管理も行うマネージャーを指します。近年、多くの中小企業が深刻な人手不足に直面しており、プレイングマネージャーがますます重要視されています。彼らはプレイヤーとしての役割を果たしながら、組織全体としての成果を上げることが求められています。
プレイングマネージャーは、プレイヤーとしての時間を確保する必要がある一方で、部下との十分なコミュニケーションを図るためにも時間を割く必要があります。したがって、時間の有効活用が彼らの業績に大きく影響する要素となります。
本コラムでは、プレイングマネージャーの時間の使い方と意識すべきことについて述べます。プレイングマネージャーとして、上記の課題に取り組んでいる方々に、少しでも実務に役立つ知識を提供できれば幸いです。
INDEX
プレイングマネージャーの実態
プレイングマネージャーは、単にチームのマネジメントに専念するだけではなく、自ら実績を作り出し、圧倒的な成果を上げる必要がある上に、部下を指導し育て、チーム全体の成果も追求しなければならないマネージャーです。このような点からも、プレイングマネージャーは非常に難しい役割を担っていることがわかります。
そのため、多くの企業が「プレイングマネージャーは日々の多忙な業務に追われて、全体の管理や部下指導・育成が疎かになっている」という課題を抱えています。
管理職の4~5割が「自身の業務」と「組織の業務」の両方が肥大化していると感じており、特に働き方改革が進んでいる企業ほどその傾向が強いという結果が出ています。また、半数程度の管理職が付加価値を生む業務にコミットできていないという結果が出ています。
特に負担感が強くなる要因として、部下のマネジメントや新しい組織課題(ハラスメント、コンプライアンス、ダイバーシティなど)への対応、そしてコスト削減が挙げられます。
以上の調査から明らかになったのは、「管理職の業務量」と「管理職の役割」が増大しており、それが管理職の負担増加につながっていることです。つまり、プレイング(通常業務の遂行)とマネジメント(様々な管理業務)の両面から負荷が増えているということです。
さらに、多くの企業からは「管理職になることを望まない若手が多い」という課題が指摘されています。若手社員自身が述べるところによれば、「管理職の業務量やストレス状況を見ていると、そのように感じる」とのことです。現在の管理職の状況を見直すことは、プレイングマネージャーの負荷を軽減するだけでなく、将来のマネジャーを育成する意味でも重要と言えるでしょう。
- 管理職の約半数が負担増加を感じる
- 管理業務、通常業務の両方の負荷が増えている
- 管理職になることを望まない若手が多い
マネジャーを取り巻く環境の変化
デジタル化、グローバル化、リモート勤務など、働き方の変化や外国人雇用の増加、そして2023年にはZ世代(西暦2000年生まれ)が入社するなど、マネージャーを取り巻く環境はかつてないスピードで変化しています。このような変化により、従来のマネジメント手法ではうまく対応できなくなってきていることを、マネージャーの皆様も感じていらっしゃるのではないでしょうか。
新たに求められるマネージャーのスキルとして、以下の3つが挙げられます。
- 言語化力
- ストレッチアサインメント
- アサーティブコミュニケーション
1つ1つ見て行きましょう。
言語化力
若手社員から「もっと具体的なフィードバックが欲しい」という要望や、「この仕事の目的と背景を教えてください」といった質問を受けるマネージャーも多いでしょう。
また、会社でこれまでと180度異なる方針が決定され、それを部下に説明し、納得させることを求められたという経験を持つマネージャーもいることでしょう。そして従来の暗黙の了解が通用しなくなってきていることも同時に痛感しているのではないでしょうか。
チームメンバーを抱えるマネージャーという立場であれば、メンバーへの指示や業務へのフィードバックなど「人に何かを伝える」ことが業務においてとても重要です。コミュニケーションロスは、チームで成果を目指す上での大きな障壁です。メンバーとの連携を円滑に行うためには、マネージャーの伝える技術、言語化力が重要です。
以下の3ステップで言語化力を鍛えてみてください。
- 事象をよく観察する
- 話を伝える相手のことをよく理解する
- わかりやすく相手に表現する
▼ステップ1:事象をよく観察する
観察力は、「気づく力」とも言うことができます。変化に気づいたり、物事の共通項から本質を見抜くことを意識しましょう。日常生活の中で、様々なことにアンテナを張り、情報収集することで観察力を鍛えることができます。
▼ステップ2:話を伝える相手のことをよく理解する
伝える相手がどれくらいの前提知識を持っているかを考慮しながら、さらに言語化を進めることが重要です。その際に必要なのが「共感力」です。
自分だけの中で完結した解釈をそのまま伝えても、相手は理解することができません。相手の立場や背景を考え、相手が理解しやすい言葉や具体例を用いて説明することが大切です。
▼ステップ3:わかりやすく相手に表現する
実際に相手に伝える最後のステップでは、「表現力」が不可欠です。相手が理解しやすいように、必要に応じて言い換えたり、分かりやすくするために簡潔な表現を用いたりすることが重要です。
具体例を挙げたり、論理的な構成に気をつけたりすることで、説明をわかりやすくすることができます。相手がイメージしやすい具体的な例を交えることで、情報をより具体的に伝えることができます。
ストレッチアサインメント
ストレッチアサインメントとは、困難な課題や業務をメンバーに割り当てることを指します。ビジネススキルの向上やリーダー育成などの人材育成を目的に、達成や解決が困難な課題を割り当てて能力開発を促すことを目指します。そのため、終了後には高い効果をもたらすことができます。
ビジネスにおけるアサインメントは、大きく以下の3つの種類があります。
- ジョブアサインメント
各自の実力を見ながら仕事を割り当てること - ダブルアサインメント
一つの業務に2人の担当者をつけること - ストレッチアサインメント
人材育成のため、能力以上の仕事を割り当てること
このように、ストレッチアサインメントは、現状の能力を超える役職や仕事を割り当てることで、その人の成長を促す手法です。ただし、負荷が過剰にならないように注意が必要です。人材の成長において、成長が期待できる分野を少し不安を伴いながらも「ストレッチゾーン」として指定します。
ストレッチゾーンの仕事を任せ、それを乗り越えるためのサポートをすることで、人材の成長速度を早めることができます。また、本人の自信にもつながり、チーム全体のやる気の向上にも寄与します。
アサーティブコミュニケーション
アサーティブコミュニケーションとは、「自分を大切にし、相手も同じように大切にする」コミュニケーション方法です。自分の感情を把握し、コントロールしながら、適切な言葉を選んで相手に伝えます。自己表現をする際に相手の権利を侵害しない方法です。
以下に挙げるのは、アサーティブではないコミュニケーションの例です。もし自分が以下の例に該当する場合は、改善に意識を向けましょう。
- 感情的に相手を攻撃する
- 相手から悪く思われたくないからと受け身になる
- 相手に対する不満を直接ではなく陰口などで伝える作為的な態度を取る
相手と対等な関係を築けない場合は、アサーティブコミュニケーションを行うことが難しくなります。自分自身のコミュニケーションの傾向を知り、改善点を見つけることが重要です。
プレイングマネージャーが時間を作る方法
本コラムのテーマの1つ、「時間の有効活用」について記載します。以下の2点を実施することで、時間を生み出すことができます。
- 人に任せる
- 会議を見直す
①人に任せる
マネジャーは「締め切りがなく、形のない仕事」をいくつも抱えています。
例えば、以下のような仕事が挙げられます。
- チームの方向性を示す
- チーム内の和を保つ
- メンバーの観察
- メンバーの悩みや不安を受け止める
本気で取り組む場合、先述したようにそれなりの時間と労力が必要であることは、実際に経験のあるマネージャーであれば理解されていると思います。プレイングマネージャーとして、厳しい締切や具体的な形が求められる仕事に取り組んでいる場合、働く時間が増えるにつれて仕事量も相応に増える可能性があります。
そのため、マネージャーには時間的な余裕を確保するために、「緊急かつ重要」な業務以外については、他のメンバーに積極的に委ねていくことが求められます。ただし、単に仕事を押し付けるのではなく、適切なタイミングで報告や連絡を行いながら、可能な限り仲間に仕事を任せることを心掛けてください。
②会議を見直す
マネジャーになることで、業務範囲が広がり、判断業務が増えるため、会議やミーティングへの出席回数も自然と増えていくでしょう。しかしながら、全ての会議に出席しようとすると、時間がいくらあっても足りなくなる可能性があります。
そのため、マネジャーは自身が本当に出席する必要があるかどうかを検討し、場合によっては出席せずに報告を受けるという対応が求められます。また、会議の冒頭で議題や方向性を確認した後、マネジャーが退出し、他のメンバーに話し合いを任せて最終判断を下すという方法もあります。資料の配布やメールによる情報共有で済む内容であれば、会議そのものを取り止めることも良い判断と言えます。
プレイングマネージャーとしての時間の使い方まとめ
プレイヤーとして成果を上げた人に対して、会社が「成果があるから部下の育成もお願いする」というように、仕事の一環としてマネジメントを依頼することがあります。しかし、自身の仕事と同時に部下をマネジメントすることは簡単ではありません。
自分自身の成果を出しながら部下をマネジメントすることは非常に困難です。そのため、当社では「マネジメント研修」や「次世代マネージャー育成研修」などのトレーニングを提供しています。これにより、プレイングマネージャーとしての時間を有効に活用し、能力を向上させ、安定的な部下育成の仕組みや組織風土を築くことが重要です。