幹部・管理職が知っておくべき経営課題と人材戦略上の課題とは

幹部・管理職が持つべき視点|経営課題と人材戦略上の課題とは

環境変化と経営上の優先課題、人材戦略上の優先課題は直結しています。環境変化として近年取り上げられることが多いのは「グローバル化」「デジタル化」「少子高齢化」です。これら3つの環境変化もまた、経営課題と人材戦略上の課題につながっています。

今回のコラムでは、経営課題と人材戦略上の課題から、幹部・管理職がどのような視点を持つべきかについて記載いたします。

3つの環境変化とそれぞれに連動する課題

3つの環境変化とそれぞれに連動する課題

環境変化にはグローバル化やデジタル化、少子高齢化などがありますが、環境変化に伴い、経営上、人材戦略上にどういった課題が発生するのでしょうか。

以下の表に纏めましたのでご参照ください。

環境変化経営上の優先課題人材戦略上の優先課題
①グローバル化・高成長の海外市場におけるシェア獲得や多様化する顧客ニーズへの対応
・グローバルな組織ガバナンス
・企業の存在意義(パーパス)の明確化
・グローバル成長を牽引できる経営人材をはじめとした、多様な人材の育成・確保
・職務やスキルに対応した「ジョブ型」の促進など柔軟な人事制度の構築や運用
②デジタル化・winner takes allの経済に移行、「すり合わせ」の競争優位が低下
・競争力や勝ち筋の再検証
・テクノロジーの変化スピードへの対応
・イノベーション創出をリードする人材の育成・発掘・獲得、既存オペレーション人材の強みとの両立
・ビジネスモデル変化に対応した人材の再教育・再配置
③少子高齢化・シニア人口増加・若年人口減少への対応
・社会で活躍する期間が長期化し、個人のキャリア意識が向上
・人材や価値観の多様化への対応
・従業員の自発的貢献意欲(エンゲージメント)の向上
・自律的なキャリア構築の支援、成長機会の提供

更に課題について掘り下げていきます。環境変化ごとに解説していきます。

グローバル化から生じる、経営上・人材戦略上の課題

グローバル化から生じる、経営上・人材戦略上の課題

グローバルな組織ガバナンスの基盤として重要なことは、企業文化を海外従業員も含めたグローバル全体に浸透させることであり、まさにCHRO(※1)のミッションでもあります。

CHRO(Chief Human Resource Officer)とは(※1)

CHROは日本語では「最高人事責任者」と訳される。CHROの使命は、経営者と従業員の間に立って人事が掌握する人的資源管理のすべてに責任を持ち、企業ビジョンや理念の達成、企業価値の向上のために寄与することである。

しかし、グローバル競争に打ち勝つためのイノベーションを生み出すことを最重要課題と認識しながらも、人事領域はいまだに自前主義が根強く、今いる従業員のモチベーションを高め、今いる従業員のスキルで戦おうと考える企業も多いようにも感じます。しかし、恐らく日本で働く日本人の従業員のことしか想定できていないのが現状でしょう。

企業自体のグローバル対応が進んでいない

商品は国境を越え、海外売上の比率が増加している一方で、海外企業の買収によるグローバル戦略を展開する日本企業が多いものの、企業自体のグローバル化対応は進んでいないという問題があります。

グローバル化に向けた本社の意識改革が不足しているという指摘や、政府主導のガバナンス改革に対応して資本市場向けのガバナンスは確立されたものの、海外拠点を含むグループ全体のガバナンスは依然として脆弱であるという実態が指摘されています。

経営経験が少ないため、経営会議の意義が薄い

経営経験の重要性は、人事部門の最高責任者(CHRO)に限らず、人事、経理、研究開発などの特定の職能に長けた役員ばかりではなく、日本の多くの大企業では各職能の専門性に基づいて昇進しているのが現状です。

部長レベルまではこのような専門性での昇進が適しているかもしれませんが、Cレベル(※2)の役員には経営者としての視野が必要です。

Cレベル(※2)

C-levelとは、経営幹部レベルCEO、CFO、COOなど、経営を司っているレベルのことを言う。要するに、C-という文字で始まる最高責任者レベルの経営幹部をこのように総称する。Chief Executive Officer (CEO=最高経営責任者)、Chief Operating Officer(COO=最高執行責任者)、Chief Financial Officer(CFO=最高財務責任者)など、社長(会長)クラスや各執行部門のトップをいう。例えばCFOなら、日本では昔、「財務担当副社長(専務)」などと呼んでいた役職に相当する。CEOは会長または社長、COOは社長または副社長と兼務している会社が多い。

経営者としての見識・考え方が問われるはずの経営会議も、経営トップの経験がない人ばかりが集まるのでは「大部長会議」になってしまいます。これでは部長会議と何が違うというのかわかりません。

部長から役員に上がるタイミングや、Cレベルの経営陣になるまでには、子会社や他社、少なくとも事業部門のトップの経験を積み、そこで実績を挙げたからこそボードに迎えるという形にならない限り経営会議は意味をなさないのです。

CHROの最大の仕事

CHROは、単に人事部門の延長としてではなく、顧客、取引先、社会、資本市場といったステークホルダーとの関係の中で、「ヒト」という経営資源をどのように確保し、活用するかを考え、適切な組織構造や意思決定プロセスを構築する必要があります。この役割は、戦略提案や情報提供、人事機能の提供といった人事部の伝統的な仕事とは根本的に異なります。

ジョブ・ディスクリプションが明確ではない

HRテクノロジー(※3)の導入が海外で急速に広がった背景には、人事が「ジョブ型」であるという特徴があります。専門家は、ジョブ型の人事では職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)がはっきりしていることを指摘しています。

HRテクノロジー(※3)

HRテクノロジーとは、Human Resource(人事)とテクノロジーを合体させた造語。人的資源の調査、分析、管理を高度化し、ビジネスのパフォーマンスを高めるテクノロジー。DXの加速に伴って注目されている分野の一つ。

ジョブ・ディスクリプションが明確であるため、個々人のスキルや経験といった人事データを有効に活用できます。それに対して、これらが不明瞭だと、どのような仕事に適しているかのマッチングを行うことは困難です。

海外のジョブ型人事と比べて、日本の企業は「メンバーシップ型」が一般的です。このアプローチでは、人材を仕事に合わせて配置するのではなく、社員が様々な業務を経験しながらスキルを向上させることに重点を置いています。

どちらのシステムにもメリットとデメリットがあります。日本の企業がジョブ型に移行し、新卒一括採用を廃止することが必ずしも良いとは限らないとはいえ、ミレニアル世代を中心とする若年層の中には、従来の日本式のあいまいな職場環境でキャリアを築くことへの不安を感じている人もいるという声があります。

HRテクノロジーの取り組みが進んでいない

人事データを集積してAIが機能すれば、ジョブ定義などしなくてもうまく人事をマッチングできる時代になるかもしれませんが、ブラックボックス化したAIのマッチングを信じてやる気を出せるという社員は少ないでしょう。最低限のジョブ定義を行い、そのために必要なスキルを定義することが求められる時代に入っているのではないでしょうか。

グローバル競争力とイノベーションが経営の重要課題となっており、CHROや人事幹部にとっても、そのためのリーダー育成やマネジメント力向上、社員のマインドチェンジとモチベーション向上が課題となっていること、そして、そのためにHRテクノロジーに大きな期待が寄せられています。

しかし、人事分野やテクノロジー分野に専門人材が不足しているため、多くの企業でHRテクノロジーの取り組みが進んでいないというのが現状です。

日本でHRテクノロジーが進まない理由

日本企業の人事の仕事は、これまでの高度成長時代に築かれた年功序列、終身雇用といった日本型人事システムを前提に労務管理を中心とした時代が長く続いてきたこともあり、現在求められている人事部門の仕事とは、かなりのずれが生じているのが実態でしょう。現在の戦略的な取り組みを担える専門人材が不足しているということもその結果です。

弊社ではCHROの立場として企業に入らせていただくことも近年増加しております。CHROという経営者の視点に立った人事部門の機能強化、専門性強化に貢献すべく、取り組ませていただいております。

デジタル化から生じる、経営上・人材戦略上の課題

デジタル化から生じる、経営上・人材戦略上の課題

近年、デジタル変革が注目を集めるなか、消費関連分野においては、EC市場の拡大やデータを活用した新たなビジネスモデルの登場など様々な変化が生じています。21世紀においてデータはヒト、モノ、カネに続く重要な経営資源といわれており、企業は多様なデータの獲得に注力しているほか、それを活用したさまざまなマーケティング手法の導入が進んでいます。この背景には、ビッグデータやAIの登場によって膨大なデータの分析が実用化レベルで可能になったことがあります。

しかし日本では、昨今、デジタル変革の重要性は各所で指摘されるものの、正式な定義が存在しないことから、業界や企業によって捉え方は様々であり、デジタル変革によって企業が何を達成すべきかが曖昧であるように感じられます。

デジタル化に伴うリスキリングの重要性

企業の戦略は、時代の変化に合わせて変わっていきます。その際にどのように対応していくのかのカギとなるのがリスキリングです。

①解雇されることなく仕事を継続できる

かつて花形だった部署が衰退し、消滅するのは決して珍しいことではありません。その際に余剰人員となった従業員の雇用を守り、活用するための手段となるというのがリスキリングが重視される1つ目の理由です。リスキリングに取り組んだ従業員は、一度は余剰人員とみなされても解雇されることなく仕事を継続でき、企業は採用活動をすることなく人材不足を補うことができるのです。

注意ポイント

技術の進歩は早く、あらゆるスキルはすぐに時代遅れになります。当事者にとって、自らのスキルが古くなっているという事実を受け入れるのは難しいことかもしれませんが、リスキリングを成長の過程として捉えられなければ、従業員は職を失い、企業は衰退していくでしょう。

②DXへの対応に必要不可欠

リスキリングが注目されるもう一つの理由は、デジタルトランスフォーメーション(DX)への対応です。DXとは、単にデジタル化や効率化を意味するのではなく、企業の製品やサービス、ビジネスモデル、さらには組織自体の根本的な変革を指します。事業構造の変化は、全てのビジネスプロセスでこれまでとは異なるスキルを必要とします。このため、DXへの対応はIT技術者だけの責任ではありません。

すべての従業員には、会社の変化を把握し、新しい知識やスキルを習得し、新しいシステムに適応しながら業務を遂行し、利益を生み出す能力が求められます。企業がDXに真剣に取り組む際には、全従業員のリスキリングが不可欠です。自社の従業員が持つ現在のスキルと、将来必要になるスキルを明確に把握し、そのギャップを埋めるためのリスキリングプログラムを計画し、実施することが重要です。

少子高齢化から生じる、経営上・人材戦略上の課題

少子高齢化から生じる、経営上・人材戦略上の課題

近年の人口減少や少子高齢化、 都市部への人口集中の急速な進行によって、様々な課題が顕在化しつつあります。「地域」「組織」「個人」という観点から課題を考えましょう。

観点課題
地域・地域における医療・介護や移動手段の確保
・空き家問題や貧困問題などの複雑化
・多様化する地域課題への対応
組織・様々な分野で担い手が不足
・競争率(受験者数/合格者数)が年々低下
・必要な人材を確保することが困難
個人・「仕事」や「家庭・プライベート(私生活)」に対する価値観の変化・多様化
・柔軟な働き方・ライフスタイルを選択できるような社会が求められる

新型コロナウイルス感染症によりデジタル化の遅れが浮き彫りに

令和2年1月から世界的に急速な広がりを見せ、今なお収束しきっていない新型コロナウイルス感染症に関しては、日本においても国民の日常生活に大きな変化をもたらしました。この感染症の拡大により、都市部への人口集中による感染リスクや、経済機能等の国の中枢機能が一極集中していることのリスクが改めて認識された一方で、テレワークなどのリモートサービスの活用・定着が進み、多様な働き方や地方移住を前向きに検討する気運が高まリました。

行政分野でのデジタル化・オンライン化の遅れ、デジタル専門人材の不足など、社会の様々な課題やリスク、これまでの取り組みの遅れや新たな動きなどが浮き彫りにもなりました。

こうした中、総務省においては、地方公共団体に向けて、新型コロナウイルス感染症のまん延防止のため、出勤者の削減に取り組むよう要請しました。また、地方公共団体等におけ るテレワークの導入を促進するため、テレワークマネージャーによる相談体制の強化や、地方公共団体における職員向けテレワークの導入経費について特別交付税措置を講じるなど、テレワーク導入に向けた支援を強化しました。民間企業でも同様にテレワークは浸透し、コロナ前と比較するとテレワーク導入率は上昇し、商談や会議が遠隔開催で行われ、WEB会議が定着するなど、場所にとらわれない 働き方の環境整備が進みました。

人材マネジメントに時間とコストをかける必要がある

今後の少子高齢化の進行による生産年齢人口の減少を踏まえると、限られた人材を最大限に活用して課題解決に取り組む必要性が年々高まっているというのは、言うまでもないでしょう。人材を「人財」として捉え、人材を「マネジメント」する視点に立ち、必要な人材の確保、 育成、能力開発に時間とコストをかける必要があります。従業員の職歴、研修情報、能力・資格情報、将来のキャリアビジョン、人事評価結果等の人事情報を活用し、研修やOJT、人事評価、配置等の人事制度を、総合的かつ包括的に運用しながら、人材を育成することが求められます。「人材マネジメント」 の視点に立ち、人材育成の取り組みを進めることは、どの業界・企業においても必須事項と言えるでしょう。

リスクマネジメントの必要性

リスクマネジメントの必要性

デジタル技術の進化にともなう経営環境の劇的な変化に加え、今般の新型コロナウイルス感染拡大により、企業が対処すべき経営課題は大きな変化にさらされています。日本企業が決して変化に適応できていないと言うのではありません。戦後からの復興、高度経済成長、あるいはオイルショックや円高、日米通商摩擦など、様々な外的要因による経営環境の変化に対して、日本企業はうまく適応してきました。

しかし、それらの適応は、現象対応的、受動的なものであったとも言えます。もはや環境が変化することが当然となっている今日においては、むしろ、いかに能動的に変化に適応していくかが重要であり、そのための組織づくりが不可欠となっていると考えます。社会の変化はますます激しさを増しています。

こうした変化を想定しながら、絶えず事業を見直し、人材や組織の力を高め、新たな価値を生み出し続けることが最大の経営課題であると言えるでしょう。

人材マネジメントについてはSトレにご相談ください

人材マネジメントについてはSトレにご相談ください

人口減少や少子高齢化が急速に進む中で、企業においては、課題に的確に対応し、人材を確保し、育成する重要性がますます高まっています。今般の新型コロナウイルス感染症は、国民の日常生活に大きな変化をもたらしました。テレワークなど働き方改革の推進やデジタル技術の活用 など、さらなる取り組みの推進が求められています。今後、さらに少子高齢化の進行による生産年齢、人口の減少に伴う一層の働き手不足も指摘されており、 限られた人材を最大限に活用し、組織力の向上を目指すための取り組みが必要でしょう。

併せて、 職場としての魅力を高め、従業員個々のモチベーションの向上につなげるとともに、 多様な人材が働きがいを感じ、健康的で多様な働き方ができるよう環境整備を進めていかなければなりません。その際、取り組みのポイントとなるのは、人材を「マネジメント」する視点です。人材マネジメントについてもっと詳しく知りたい方はSトレまでお問い合わせください。

民間企業における事例も踏まえ、人材を「人財」として捉え、組織全体で、人材をマネジメントする視点に立ち、「人材確保」、「人材育成」、「適正配置・処遇」及び「職場環境の整備」に取り組んでいく必要性について記載しました。人材育成の取り組みを計画的に、実効性高く進めていくことが重要です。

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