管理職が知っておくべきコーチングスキルを解説します!

管理職が知っておくべきコーチングスキルを解説します!

人材を企業価値向上の中核に据える「人的資本経営」の推進が叫ばれる日本で、人材投資の一環として「コーチング」の活用は、今後も広がると考えています。

そこで今回のコラムでは、近年話題のビジネスにおける「コーチング」について記載します。特に管理職の方は、知っておくべきスキルですので、是非ご覧ください。

雇用の変化

雇用の変化
日本では今、戦後の経済成長モデルとは異なる新たな市場経済の枠組み、新たな企業経営の姿、さらには新しい働き方が求められています。企業に経済的側面のみならず、社会的側面と環境的側面の責任を期待する「企業の社会的責任(CSR : Corporate Social Responsibility)」の広がりがその一つです。かつての男性正社員に見られた仕事中心の生活を見直し、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)」を推進する社会的な動きも始まりました。

更に年齢、性別、国籍、健康状態などの異なるさまざまな人々が、一人ひとりの能力を発揮して企業を発展させる「多様な人材の管理(ダイバーシティ・マネジメント)」は、真のグローバル化を目指す企業において重要課題に位置付けられています。

コーチングなどの面談の種類

コーチングなどの面談の種類と概要

スポーツの世界でよく耳にする、チームや選手を勝利に導く「コーチング」が、企業の中での社員の能力開発や組織活性化の手法として注目されています。対話を通じて主体的な行動変容を促すコーチの存在は、働く人の生産性を向上させる可能性を秘めています。

相談者に対する「面談の方法」は重要ですが、実は面談にも様々な種類があります。今回のテーマである「コーチング」以外にもカウンセリング、ティーチング、コンサルティングなどの方法があります。

それぞれの概要について、下記表をご覧ください。

▼面談の種類・概要

名称 コーチング カウンセリング ティーチング コンサルティング
概要 「答えは相談者が持っている」という考えのもと、コーチが質問と承認を繰り返し、相談者の意識を引き出す 専門知識を持ったカウンセラーが行う対話をベースとしたメンタルサポートおよび相談 学校の授業や社内研修が代表例であり、知識を持たない学習者に対して、指導者が教授すること 専門家が有する知識と経験をもとに、相談者の問題解決策を提案し、共に実行していくこと
主な目的 相談者の目標に向けた意識や行動変容を促すこと 精神的に落ち込んだ状態から健康な状態へ戻すこと 問題の解決に必要な知識を教えること 対等な関係で問題解決に当たること
時間 明確な答えがない悩みをじっくりと考えていく 明確な答えがない悩みをじっくりと考えていく 早期解決が可能 早期解決が可能
マインド 主体的 主体的 受動的 主体的かつ受動的
メリット コーチから答えが与えられるわけではなく、自分で考えて答えを出すので、考える力が養われること カウンセラーは相談者の話を否定することなく傾聴するため、相談者は傾聴により、「これでいいんだ」と自分を肯定された気持ちになり、癒され回復していくこと 問題に対して解決方法をダイレクトに伝えるため、緊急性の高い問題に対しては有効であること 専門家が解決に最適な方法を提案する
コーチングとは

コーチングとは、自ら考え行動できる人材を育てることを目的として行われる面談とも言えるでしょう。

2種類のコーチングスタイル

コーチングスタイルには、大きく分けて「指示型コーチング」と「非指示型コーチング」があります。

指示型コーチングと非指示型コーチングにはどの様な違いがあるのでしょうか。スタイルや事例を下記表に記載しておりますのでご覧ください。

▼「指示型」と「非指示型」の違い

指示型コーチング 非指示型コーチング
スタイル 相手に対して考え方や行動の仕方を「教えていく」スタイル 相手に対して「気づくきっかけ、考えるきっかけ、行動するきっかけを与える」スタイル
事例 野球のバッティングコーチが、スイングの仕方を選手に教えること。コーチのもっている技術や知識を相手に伝えて、そのとおりにやらせる方法 コーチの知っていることをやらせるのではなく、相手のもっているものを引き出すこと

近年注目されているのが「非指示型のコーチングスタイル」です。その理由には、以下のような内容が挙げられます。

非指示型のコーチングスタイルが注目される理由
  • 自発的な行動が発揮しやすくなる
    非指示型のコーチングスタイルを受けることによって、自発的な行動が発揮しやすくなる
  • 上位者の知識・経験がなくてもカバーできる
    現代のビジネスシーンでは、上位者(上司、管理者)のもっている知識や経験が陳腐化するのが早く、かならずしも下位者(部下)にとって有効とは限らず、また下位者のほうが知識や経験が豊富な場合もある。非指示型のコーチングスタイルでは、それをカバーすることができる
  • 自分で考えられるようになる
    人間の能力を向上させるには、与えられた知識や技術を受け入れるだけではなく、自分で考えることが重要であり、そのためには「非指示型のコーチングスタイル」が有効である

競争が激化する一方の現代のビジネス環境においては、成長の可能性を有した有能な人材を確保し発揮させることが、ビジネスの勝敗に直結するといっても過言ではないでしょう。

2つのコーチングの分類

コーチングは、誰を対象とし、どんな目的で行うのかで、いくつかに分類することができます。その中で、「パーソナルコーチング」と「ビジネスコーチング」という2つの分類があります。

この2つの分類における違いについては以下の表をご覧ください。

▼コーチングの分類

パーソナルコーチング ビジネスコーチング
コミュニケーションの違い 利害関係のない間柄において、相手個人が欲するものを手に入れたり、実現したり、あるいはよりよい状態への変容を、サポートするコミュニケーション 組織の目的を達成するために、その構成員の各種能力を高め、業務遂行に対するモチベーションを維持向上するためのマネジメントツールとしてのコミュニケーション
時間的制約 一般的に小 一般的に大
被コーチング開始動機 自発的(能動的) 他動的(受動的)

組織の中で働く方は、ビジネスコーチングについても理解を深める必要がございます。

ビジネスコーチングを円滑に進めるための注意点

ビジネスコーチングを円滑に進めるための注意点

コーチングが効果を発揮するためには、コーチングを受ける人自身の喜びが土台となっており、それはパーソナルコーチングでもビジネスコーチングでも同じです。

ビジネスコーチングを受けることによって、その個人は、仕事に対しての喜びや職場での満足感を得やすくなります。そして組織のみならず自分自身にとっても大変好ましい状態を作りだすことができます。そのため、管理者が部下へコーチングをする際には、単なる管理ツールとして行うのではなく、その部下にとってよい結果になる、ということを肝に命じ、熱意をもって実施することが重要です。

具体的に注意点を3つ記載します。

  1. 個人の利益と組織の利益が一致する部分を見極める
  2. 上司の影響力は思っているより強いことを理解する
  3. 時間のかかり具合によるテーマを選択する

それぞれ見ていきましょう。

個人の利益と組織の利益が一致する部分を見極める

組織の目的を第一に優先した会話だけでは、コーチングは機能しにくくなります。しかし部下の個人的なビジョンだけを取り扱っていては、組織としての向上にはつながりにはません。

両方が一致する部分がどこなのかを見極め、そこに焦点を当て、また相違のないように進めていくことが重要です。

上司の影響力は思っているより強いことを理解する

組織において、上司は自分の考課者であり、部下としてはどこまで本音で話してよい相手なのか警戒する対象です。したがって、部下は無意識のうちに用心しながら上司と会話をするものです。それゆえ、上司の微妙な非言語的コミュニケーションを無意識のうちに敏感に察知し、自分に不利にならないような発言を選択していきます。

一言メモ

上司と信頼関係が相当深まっていてもこの傾向は残るため、そのことを承知の上で話しを聴くことが重要です。

時間のかかり具合によるテーマを選択する

ビジネスシーンでは、時間は大変重要な要素です。それゆえ、ゆっくり部下と話をする、部下の話を聴く、ということは難しいものです。コーチングは、一方通行的な指示や命令・報告ではなく「会話」ですから、それなりに時間もかかります。

一言メモ

多くの時間をかけてもよいテーマ、少しの時間でも可能なテーマの選択が重要です。

「コーチ」と「クライアント」の関係

「コーチ」と「クライアント」

コーチングには、コーチングをする側の「コーチ」と受ける側の「クライアント」がいます。ビジネスコーチングの場合、一般的には上司がコーチ部下がクライアントになります。コーチとクライアントの関係について、以下に記載します。

クライアントの立場とコーチの役割

コーチングにおいて、クライアントは主役ではありますが、コーチのコントロール下にあります。コーチに身をゆだねる立場、といってもよいかもしれません。もともとコーチというのは、4頭立ての馬車のことです。

馬車に乗った客(クライアント)は、自分の目的地を告げ、あとは馬車に委ねます。目的地に無事に着けるかどうか、時間通りに着けるかどうか、乗り心地が良いかどうかなどは、御者次第です。

では、コーチはどういう立場でしょうか。コーチは、クライアントを目的地に連れて行く役割ですが、それは組織にとって有益となることが第一の目的です。そして、そこに到達するために、クライアントの能力向上ややる気を引き出し、あくまで本人の力でそこに到達するように「サポート」することが大切です。具体的には下記の2つの方法です。

コーチの大切な役割
  • 部下の能力を引き出す
    コーチの役目はリードすることではなく、部下の能力を引き出す役割を果たすことです。
  • 組織として目的地に到達させる
    コーチがサポートするのは個人の目的地ではなく、組織としての目的地に到達させることです。

上司としてのアイデンティティに固執しすぎない

人間には、組織において何らかのポジションに就いているときに、そのポジションにいることの正当性を周りの人や自分自身に常に明示しておきたい、という深層心理があります。そのため、無意識のうちに、正当性を確認するような発言を行っているのです。これはとくに部下に対して行われます。

なぜなら、部下から「上司」と認めてもらうことが、自身のアイデンティティの確立にとって重要だからです。例えば以下のようなことです。

  • 部下に自分の考えをひけらかす
  • 部下のアイデアを否定して、自分のアイデアを認めさせる
  • 部下の責任で仕事を任せることをしない
  • 「~してやってる」というように、部下に恩を着せるような口調で話す

簡単に言えば、「部下より自分は優れている」ということを無意識のうちに示しているのです。コーチングにおいて、コーチとクライアントの関係は「対等」です。ですから、上司は部下よりも「偉い」必要はありません。もちろん部下が偉いということでもありません。

一言メモ

「相手をひとりの人間として尊重する」というスタンスに立ち、上司という立場に固執しすぎないことが重要です。

部下の潜在能力を信じる

部下の潜在能力を信じることができないと、現在の仕事ぶりや能力だけで部下を判断しがちです。部下の能力を「不十分」と感じたら、仕事や判断を任すことをしないで、上司が指示を出し始めることが多いでしょう。普段のコミュニケーションでは、こういうことも問題ありませんが、コーチングをする場合は少し考え方を変えてみましょう。

「この部下はもっと発揮できる能力があるはず」「今は何らかの理由でやる気が出ていないだけで、本当は情熱をもっているに違いない」というように、部下の潜在能力を信じることです。そして、そのポテンシャルを引き出して行くことが、上司の役割であることを認識しましょう。それができればこそ、コーチングスキルが有効になるのです。

上司と部下の信頼関係

上司と部下の信頼関係
コーチングが機能するために大切な土台となるのが、上司と部下の信頼関係です。この信頼関係が十分になければ、いくらコーチングスキルがあっても効果はなかなか得られません。特に部下がコーチである上司を信頼していることが重要です。なぜなら、部下がどれだけ本心で話しができるかによって、本人の気づきの深さや視点の変化度合い、行動へのきっかけの強さが異なるからです。

前述したように、部下は上司に対して大なり小なり何らかの警戒心をもっています。そのため、まずは警戒心を薄めてゆくようにしましょう。相手の警戒心を薄めるにはいくつかの方法があります。その方法を以下に記載します。

信頼関係(ラポール)とは

話し手と聴き手の間に築かれる信頼関係のことをラポール(Rapport)と言います。コーチングがうまくいくかどうかのかなりの部分は、ラポールの構築にかかっており、しっかりとしたラポールが築けると、部下はカウンセリング関係の中で、安心して自由に振る舞ったり、素直な感情を表現できるようになります。

一言メモ

ラポール構築のためには、カウンセリングの基本的態度(純粋性、受容的態度、共感的理解)が重要です。

面談のスキル

面談を実行する上で、今一度見直していただきたいスキルについては、以下の通りです。

(1)問題の把握

面談が進む中で、上司と部下が相互に確認をとりながら、相談内容に関しては部下はどのような目的で相談したのか、どんなことを解決したいのかを確認していきます。課題達成や問題解決などのためには、部下自身が積極的に決定に関与し、行動する意思を持たなければなりません。

一言メモ

上司は、部下の心理的ステップに配慮して、無理のない進め方を心がけることが大切ですが、その根幹には、相手の自主性、主体性を尊重し、過度に他者依存的にならないようにする配慮が必要です。

(2)目標の設定

課題達成や問題解決のためには、上司と部下が共有できる目標の設定が必要です。そして、目標は具体的であり、実現可能であり、部下にとっての価値がなければなりません。

上司は、そのような目標を共同作業を通じて作り上げる必要を説明し、部下が明確に宣言できるよう援助します。

(3)方策の決定と実行

目標が設定できたら、次に、それを実現するための方策を定め、実行に移します。ここでいう方策とは、面談の目標を達成するための行動計画のことです。

面談における方策の実行は、一般に次の6ステップで進められます。

▼面談における方策の実行の流れ

①可能性のある方策をいくつか考え、その中から最適な方法を選ぶ

 
②方策実行のプロセスを、部下に説明する

 
③部下のニーズに合うように方策を変更する

 
④方策達成のために、上司と部下で約束事を決める

 
⑤決定し約束された行動を行動の主体である部下が自分の責任で実行する

 
⑥方策の実行全体をチェックする

(4)成果の評価

最終段階は、成果を適切に評価し、無理のない終結に導くことです。成果の評価は、部下の成長と上司の成果の両面から行う必要があります。

部下の成長
  • 感情面だけでなく行動面も変化したか
  • 評価の主体は上司ではなく部下である
上司の評価
  • 具体的な結果(目標の達成度など)
  • 質的な側面(部下の自信につながったかなど)
  • 時間的枠組み(所要時間や回数は適当だったかなど)

(5)面談の終了

部下に正式に面談の終了を宣言し一区切りを付けます。延々と面談を続けることは、部下の自律性を阻害する危険性があるため、避けるべきです。部下には、将来さらに必要が生じた場合には、面談に応じることを伝える必要もあります。

面談が終了したら、上司は、今後のためや部下に対して責任をとるなどのために、記録を整理して保存しておくと良いでしょう。

おすすめポイント

記録には、部下の名前や部署名、面談を担当した上司の名前、面談の目標や時系列の実施記録、成果、上司の所感などを記しておくと、今後部下が部署を異動する際や昇格面談時の判断の際にも役立ちます。

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コーチングの手法を学ぶことは、OJTや部下指導を行う際に、管理者にとって大変メリットのあることです。コーチングの手法を知っているか知らないかでは、指導力に大きな差がつきます。そして、コーチングの手法は先天的な能力に頼るものではなく、後天的な学習(自己啓発等)によって誰でも習得することができるものです。

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