現管理職の方、また次世代管理職の方から相談をいただく内容の1つに「部下のマネジメントが難しい。部下に正しく業務命令が伝わらず、思っていたような成果が出せていない」というお声があります。
業務命令を行う理由には、会社全体の利益を生むことや、部下が指示を受けた業務を円滑に完遂することはもちろんですが、もう1つ部下個人の成長のためという理由があります。
部下が業務命令を遂行することで、自分自身の能力開発につながることを理解し、協調性を高めてくれれば、上司としては非常に有難いことでしょう。そのためにも上司は、管理職に求められるマネジメントを理解することが重要です。
INDEX
管理職に求められるマネジメント
管理職には、業務の目標を達成するとともに、人財を育成することが求められます。そして、その過程においては、円滑なコミュニケーションを踏まえて部下の支援を行うことが必要です。そのためにも、管理職には管理職に求められる適切なマネジメントについての理解・実践が不可欠です。
- 組織の使命や任務を遂行するため、方針や目標を設定してメンバーと共有・深化させること。
- チームメンバーである部下一人ひとりの能力を最大限に発揮させ、また育成しつつ、できるだけ効率的に目標達成を図ること。
職場環境・社員の意識の変化
従来のやり方が通じなくなってきた
現在の職場では、従来と比較し、女性社員、非正社員、育児・介護等の多様な家庭事情を抱える社員が増えるなど、社員構成が多様化(ダイバーシティ)しています。また、各社員の仕事に対する意識も変化しています。
- 上司の背中を見ていれば、すぐに仕事はできるようになる!
- 深夜残業や休日出勤をしてでも、完璧な資料を仕上げよう!
- 部下の気持ちは、 飲みニケーションで よくわかっている!
職場環境や社員の意識が変化すると、管理職がこれまでと同じやり方をしていては、仕事をうまく進めることができない状況に陥ります。
現管理職が抱えるプレッシャー
2019年4月、働き方改革関連法が施行されました。適用範囲が順次拡大され中小企業も対象となってくるなど、多様な働き方に対応するために変革を求められていますが、多くの企業はまだまだ取り組み始めたばかりの過渡期にいます。
そんな中、企業と社員の狭間にいる管理職には想像以上のプレッシャーがかかっています。
- ハラスメントなど労務管理のルールに縛られ、発言や行動がしにくい
- テレワークで部下が近くにいないので、仕事がちゃんと進んでいるかわからない
- いろいろな家庭事情のある部下がいて、誰に何を頼んだらよいか悩ましい
部下に映る管理職の姿
一方で部下も上司に対して不満を抱く場合があります。特に、上司自身が活き活きと働くことができていない場合、部下は仕事に対して負の感情を抱くことがあります。
上司の方々を取り巻く環境が年々きつくなってきていることは部下も感じていますので、思うように自分の本音を上司に伝えることができません。
- 上司が仕事ぶりを見てくれているのかわからず、この職場で成長できるのか不安
- もっと具体的にフィードバックが欲しい
- 依頼される業務が多すぎて処理しきれないが、そのことを上司にうまく報告できない
- 家庭の事情はあるが、出来る範囲で頑張りたいのに、気持ちが上司に伝わらない
管理職はマネジメントに注力する必要がある
職場環境や社員の意識が多様化する中、職場の資源を有効活用し、業務を推進するためには、管理職がマネジメントにもっと注力することが必要です。業務を効率的・効果的に進められるようになれば、管理職自身のワークライフバランス環境も向上します。
誰もが働きやすい職場を作り上げ、仕事の成果を挙げていくためには、管理職が明確な目標や方向性をチームメンバーである部下に示すとともに、部下が自ら考えて物事を前に進めていくことを支援するマネジメント(部下だけでは克服できない部分に介入して支援すること)が必要となります。部下にうまく働いてもらうことで、より大きな成果を得ることが可能となります。
まずは、部下とのコミュニケーションを通じた、信頼関係の上に成り立つチーム作りから取り組むことが重要です。相手に動いてもらうためには、理解してもらい、やる気になってもらわなければなりません。管理職という「権限」だけでは、部下はついてこないのです。
コミュニケーションの重要性
「心理的安全性」が確保されたコミュニケーション
個人だけでなくチームとして成果を挙げるためには、相互のコミュニケーションが重要です。しかし、単に会話したり連絡を取り合ったりするコミュニケーションでは組織としてのパフォーマンスが向上するチームにはなりません。
組織パフォーマンスを向上させるためには、やりとりの量を増やすだけでなく、「心理的安全性」が確保され、組織内で良質なコミュニケーションがきちんととれるチームを作っていく必要があります。
他のメンバーに対人的な不安を感じることなく、自分の過ちを認めたり、質問したり、意見を言っても、馬鹿にされたり怒られたりしないと確信できている状態を指します。グーグルが膨大な時間とコストを掛けて自社での成功しているチームの条件因子を特定したところ、最も相関関係が高かったのが「心理的安全性」であったことで一躍、注目・有名になりました。もともとは経営学者のエイミー・エドモンドソンが1999年に著した論文で発表されたキーワードです。
心理的安全性の重要性
「心理的安全性」の重要性は、特に昨今、働くメンバーたちが創造性や主体性を発揮できることがチームの成功に大きく関係するようになっていることと相関しています。しかし、一般的には組織というものはそれを阻害するような圧力がかかったり、個々人が無意識的にも自己抑制してしまったりというようなことがよく起きるのです。
心理的安全性が高いか低いかによって、職場で生じる違い
心理的安全性が高い場合
- ミスや悪い知らせでも、情報がすぐに入ってくる。
⇒的確な判断、環境変化に迅速な対応ができる。 - チーム内で支援し合うことができる。
⇒業務が円滑に進む。 - メンバーのチームへのエンゲージメント(自発的な貢献意欲)が向上する。
⇒チャレンジが起きる、業務改善ができる。 - 本人の病気や家庭事情で困っていることなどを早期に周りに相談できる。
⇒勤務時間や業務分担について早期に配慮ができる。
心理的安全性が低い場合
- 事情変更やミス等、情報がすぐに入ってこない。
⇒事情変更による作業のやり直し、問題への対処の遅れにつながる。 - メンバーが過度な負担感を覚える状況でも、本人が言い出せない、周囲が協力を申し出ない。
⇒メンバーが助け合えない、業務が停滞する。 - 表面上は従順でも言われた仕事しかしない。
⇒変化や改善が起こらず業務効率が上がらない。 - 本人や家族の持病、要介護状態の悪化などにより急に職場離脱してしまう。
⇒事前の準備ができず、業務に混乱・遅滞が生じる。
心理的安全性が確保されたチーム
心理的安全性が確保されたチームとは、対人関係のリスクがないと信じることができる、率直に質問をしたり、自分の意見を言ったり、誤りを認めたりすることができるチームです。
つまり心理的安全性が確保されたチームでは、以下のような不安がありません。
- 意見を言ったら、周囲から否定されたりするのではないか。
- ずれたことを言ったり、変なことを聞いたと思われて、恥をかくのではないか。
- ミスを報告したら、責められるのではないか。
メンバー構成の多様化が進む中で、このようなチーム環境は、限りあるマンパワーを最大限に引き出すための基盤であり、チームとしてパフォーマンスを向上させるために「なくてはならないもの」です。また、管理職との間だけでなく、メンバー同士も尊重し合いつつ、必要なときは批判的な厳しい意見であっても遠慮せずに表明しあうことのできるチームを作ることが必要です。
良質なコミュニケーションによって心理的安全性を確保することが必要不可欠です。そして、心理的安全性が確保されたチームでなければ、業務マネジメント、人材マネジメントは成り立ちません。
過去と現在の違い
昔は経験豊富な上司の意見に従っていれば正解だった場面も多かったかもしれません。しかし現在は、販売や営業であれば、DX化が進むことによりオンラインの商談や決済の場面も増え、セールスポイントが変わってきています。
そうした時にいち早く、現場の意見をボトムアップで取り入れて、時代の変化に対応しなければいけません。その場合、心理的安全性が低い状態で意見が言いづらく、情報が吸い上げられない体制だと機会損失が出てしまいます。
変化が激しく、複雑さを増すこの時代、心理的安全性を育むことはマネジメントの1つの要諦であると言えます。
管理職に必要なマネジメント能力まとめ
管理職として業務命令を行う上では、部下に対して部下個人の成長のために業務命令をしていることを、正しく理解してもらう必要があります。
そのためには職場環境・社員の意識の変化や、心理的安全性が確保されたコミュニケーションを理解して実践していく必要があります。
しかし、企業で働くことはボランティア活動ではありません。管理職として会社全体の利益を生むことを忘れてはなりません。質の低いアウトプットでも怒られない仲良しクラブのような職場になってしまっては元も子もありません。
実際、心理的安全性が高いだけでは、必ずしもチームの成果や学習に結びつかないと言われています。成果を生み出すには「高い心理的安全性」と「高い仕事の基準」がセットになっている必要があります。これについては次回記載させていただきます。