現在、多くの日本企業に注目されている「ジョブ型雇用」は、日本で主流の雇用形態である「メンバーシップ型雇用」とは異なる雇用形態です。
スキルを重視した採用を行い、結果、生産性の向上につながるといった特徴を持つジョブ型雇用は、急速にグローバル化する世界経済に対応する雇用形態と言われています。
今回はジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の概要ならびに今後中小企業が取り組むべき事項について、組織マネジメントコンサルタントの立場としてお伝えできる内容を解説します。
INDEX
「ジョブ型雇用」と「メンバーシップ型雇用」
正社員(正規雇用労働者)については、厚生労働省が2012年3月にとりまとめた「非正規雇用問題に係るビジョン」において詳細に述べられています。この文書によれば、正社員とは以下の3つの要素に基づいて特徴づけられます。
①労働契約の期間が定められていないこと
②所定労働時間がフルタイムであること
③直接雇用であること
また、大企業で一般的に見られる正社員の形態は、長期雇用慣行に基づいて以下の要素を備えています。
④勤続年数に応じた処遇と雇用管理の体系が存在すること(勤続年数に応じた賃金体系、昇進・昇格、配置、能力開発など)
⑤勤務地や業務内容に制約がなく、時間外労働が発生すること
これらの要素を満たす形態が、正社員として一般的に議論されています。
また、人材マネジメントの基本的なアプローチには、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用という考え方があります。
- ジョブ型雇用
仕事内容を明確に定義し、それに適した人材を選定する雇用方法 - メンバーシップ型雇用
人材を中心に配置し、人と仕事の結びつきを柔軟に調整する雇用方法
日本の正社員制度は、「メンバーシップ型」雇用の特徴を強調したものとされており、上記の要素(④および⑤)はこの特徴を反映していると考えられます。
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の特徴
ジョブ型雇用 | メンバーシップ型雇用 | |
---|---|---|
採用 | 担当職務(ジョブ)を明確にして採用 | 職務を明確にせず、組織の一員(メンバー)として採用 |
異動 | 少ない | 多い |
育成 | スペシャリスト育成 | ゼネラリスト育成 |
報酬 | 職務(ジョブ)に応じて決定(職務給) | 能力(スキル)に応じて決定(職務給) |
制度 | 職務等級制度(仕事基準の制度) | 職務資格制度(人基準の制度) |
特徴 | 欧米企業に多い | 日本企業に多い |
引用:日本総研
ジョブ型雇用とメンバーシップ型のメリットとデメリット
ジョブ型雇用とメンバーシップ型の特徴については前述したとおりですが、それぞれメリットとデメリットがあります。メリットとデメリットを表で紹介しますので是非ご参考ください。
ジョブ型雇用のメリット・デメリット
ジョブ型雇用は、業務内容、求める能力、労働時間、勤務地が明確に定められた上で人材を採用する雇用形態です。
以下に従業員と企業の立場での、メリットとデメリットを記載します。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
従業員 | 1.専門職の仕事に集中できる 職務記述書以外の仕事を行う義務がないため、自分の専門分野の仕事に集中できます。 2.スキルアップすることで高い報酬を得られる スキルが評価基準になるため、自分でスキルを磨くことで高い報酬を得られ、厚待遇の企業への転職も可能です。 | 1.新卒社員の活躍の場が限定される 専門的なスキルや知識があることを前提に雇用されるため、一般的に研修がなく、新卒社員は活躍の場が限定されるうえに常に自己研鑽を続けなければなりません。 2.仕事がなくなった際のリスクが高い 総合職と異なり他の分野の仕事経験が極端に少ないため、専門スキルを活かした仕事が社内でなくなれば退職せざるを得なくなります。 |
企業 | 1.雇用のミスマッチがなくなる 求職者は事前に勤務内容を把握してから入社するため、企業の求めるスキルなどとのズレや希望する職務と与えられる仕事の違いが生じづらくなります。そのため、こうしたミスマッチから生じる従業員のモチベーションの低下を防げます。 2.専門分野に強い人材を採用できる 業務範囲を限定するため、より専門性の高い人材を採用しやすくなります。 | 1.企業側の都合で転勤や異動ができない 職務記述書にて勤務内容や勤務地が限定されているため、急ぎの欠員補充や人材育成の必要が社内で発生しても転勤や移動を命じることができません。 2.より条件の良い企業に転職されやすい 勤務内容が限定されていることから社内でのキャリアアップが難しく、スキルが高まった従業員がより条件の良い企業に転職してしまうリスクが高くなります。 |
メンバーシップ型雇用のメリット・デメリット
メンバーシップ型雇用は、年功序列、終身雇用、新卒一括採用が前提とされる、従来の一般的な雇用形態です。
以下に従業員と企業の立場での、メリットとデメリットを記載します。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
従業員 | 1.多様なスキルを身につけられる 定期的なジョブローテーションによって多様なスキルや知識を身につけられます。 2.スキルがなくても採用される 研修制度が整っている場合が多く、未経験や専門的なスキルがなくても採用してもらえます。 | 1.長時間労働に陥りやすい 勤務内容が限定されていないため仕事の幅が広く、長時間労働に陥りやすくなります。 2.特定分野のスキルを伸ばせない 定期的なジョブローテーションによって部署や仕事内容が変わるため、得意分野のスキルは伸ばせない可能性があります。 |
企業 | 1.長期的な人材育成ができる 終身雇用が前提のため、ジョブローテーションによって従業員に多様なスキルや経験を習得してもらうことができます。 2.柔軟に人材の配置や異動ができる 企業の方針変更や欠員補助、人材育成などの理由で従業員に異動や転勤を命じることによって柔軟な組織づくりが可能です。 | 1.専門職の人材が不足しやすい 企業内での教育が前提ですが、ITエンジニアなどの専門分野においては教育体制が整っていないことが多く、専門分野の人材が不足しがちです。 2.人件費が割高になりやすい 年齢や勤続年数を重ねるごとに報酬が上がる仕組みのため、人件費が割高になる傾向があります。 |
政府や経団連の方針と労働政策の変遷
2022年の骨太方針は多様な働き方として「ジョブ型雇用」に言及
政府の施策方針では、2022年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針)の第2章「新しい資本主義に向けた改革」の「1.新しい資本主義に向けた重点投資分野 (1)人への投資と分配」で、「ジョブ型の雇用形態」についての言及があります。
人的資本投資の取組とともに、働く人のエンゲージメントと生産性を高めていくことを目指して働き方改革を進め、働く人の個々のニーズに基づいてジョブ型の雇用形態を始め多様な働き方を選択でき、活躍できる環境の整備に取り組む
経済財政運営と改革の基本方針2022
上記の様に同方針は「ジョブ型」を多様な働き方の1つの形態として着目しています。その上で、労働契約関係の明確化、就業場所や業務の変更の範囲の明示、専門知識や技能を持った新卒学生などの一層の活躍を促進するための採用方法の検討、フリーランスが安心して働ける環境の整備、優れたテレワークの普及、多様なキャリア形成を推進するための副業・兼業の支援などが、今後の施策メニューとして挙げられています。
経団連の「2023年版経営労働政策特別委員会報告」
人材とは競争力の源泉であり、グローバルでの競争力を高めていくには、国境を越えて優秀な人材から選ばれる企業にならなければなりません。また、DXへの対応が急務となる中で、専門性の高い人材が企業から求められています。
経団連は「2023年版経営労働政策特別委員会報告」の中で、「(2)円滑な労働移動に資する企業における制度整備」の項において、制度整備の1つの具体策として自社型雇用システムの確立を挙げています。
報告は、グローバル化の進展やDX・GX(※1)を見据えて企業が競争力を高めるためには、社外から必要な人材を採用して定着を図るとともに、「社内においては、自社の事業ポートフォリオの組替えに合わせて、成長が見込まれる事業分野・部門等に人材を重点配置していく必要がある」と強調しています。
- DXとは
デジタルトランスフォーメーション。テクノロジーを導入した単なるデジタル活用ではなく、変革そのものを実現することです。変革を実現するためには、まずは戦略やビジョンを明確にし、組織トップのコミットメントをもとに、ビジネスモデルや人材・組織をあるべき姿に変え、それに基づくデータ活用やプラットフォーム変革などの実装を進めることが重要です。さらには継続的なアップデートも求められます。 - GXとは
グリーントランスフォーメーション。温室効果ガスを発生させる化石燃料から太陽光発電などのクリーンエネルギー中心へと転換し、経済社会システム全体を変革しようとする取り組みを指します。
各企業が最適な「自社型雇用システム」を確立するのが望ましい
さらに、特定の仕事や職務、役割、ポストに人を割り当てる「ジョブ型雇用」は、該当職務に必要な能力、スキル、待遇などを明確にすることで、働く人が自身の能力向上やスキルアップの目標を立てやすくし、主体的なキャリア形成やエンゲージメント向上につながるだけでなく、外部の才能を受け入れやすくし、円滑な労働移動にも寄与する制度の整備と言えます。
社内においても、事業戦略に基づいて特定の分野や部門に必要な人材を集中配置する「ジョブ型雇用」は、能力開発と人材移動をスムーズに結びつける面で優れています。ただし、同報告書は同時に、「メンバーシップ型雇用」の利点を最大限に活用しつつ、各企業が最適な「自社型雇用システム」を確立することが望ましいとも指摘しています。
岸田政権における労働政策の変遷
「新しい日本型資本主義」を掲げて2021年10月に発足した岸田政権は、同月に「新しい資本主義実現会議」を設置し、その第1回会議で「人への投資」を重要なテーマとして取り上げました。
ジョブ型雇用を導入しても、自社で働くことの意義や価値が不明確であれば、優秀な人材が退職する可能性が高まります。たとえば、企業の理念や価値観に共感するなど、企業に残る魅力が必要です。
ジョブ型雇用を単に導入するだけでは、転職者が増加するだけであり、その維持には独自の魅力が求められます。中小企業には大企業とは異なる強みがあります。ジョブの明確化は、既存の人事評価制度や賃金体系との整合性や調和の問題を浮き彫りにする可能性が高いと考えられます。
大企業とは異なり、中堅・中小企業が人材を確保し、人材育成を考える際には、私たちのような外部専門家による実践的なアドバイスが不可欠であると考えます。
今後中堅・中小企業が取り組むべき事項
働き方の現状と課題について
全ての従業員が企業の競争力向上に貢献できるような組織を構築するためには、企業全体で人材への投資を積極的に行うことが不可欠です。
従来、日本企業の強みは企業固有のスキルをOJTで身につけることでしたが、急速に変化する産業環境に柔軟に適応するためには、企業固有のスキルだけではなく、デジタル技術などの企業を越えたスキルや新たなスキルへの投資も重要です。これにより、企業は新たな価値を創造し、持続的な成長を実現できます。
また、企業の成長を考える際には、人材投資を受けた人材が他の企業に流出するリスクなどがあるため、この点に対処するための対策が必要です。同時に、労働者も企業の人材投資を評価し、人材育成に積極的な企業への転職を考える可能性が高まるでしょう。
実際に「あさがくナビ2024」で「研修・教育制度」をテーマに実施したアンケート結果を見ると、いかに研修や教育制度に力を入れているかが就職活動において重要かが分かります。
【TOPICS】
(1) 就職活動において、「研修・教育制度を知ると志望度が上がる」と回答した学生が9割に迫る
(2) 就職活動において、「研修・教育制度を重視する」と回答した学生が8割を超える
(3) 研修・教育制度で重視するものは「社内研修の実施」が最多。
次いで「資格取得支援」「異動や配属の希望制度」【調査の背景】
終身雇用が当たり前ではなくなりつつある今、働き手による主体的なキャリア形成への関心が高まっています。
現在就職活動をしている2024年卒の学生は、「企業の研修・教育制度」をどの程度重視しているか、アンケートを実施しました。
「あさがくナビ2024」のアンケート結果より抜粋
人材不足の中で、育成に力を入れることはますます重要となると言えるでしょう。
そのため、企業内の人材育成においては、一人ひとりのキャリア志向を大切にしつつ、個人に焦点を当てた人事評価や育成が重要です。
デジタル技術への対応・リスキリング
近年のIT技術の進化などにより、短期間で環境が大きく変化する現代において、持続的な価値創造を実現するには、迅速に変化に適応できるスキルを確保することが企業にとって不可欠です。そのためには、新たな必要なスキルを適切に評価し、必要であれば従業員のリスキリング(※2)を推進する必要があります。
新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応して価値を創造し続けるために、必要なスキルを獲得する/させることを指します
リスキリングに取り組む際、企業は従業員に対して、経営戦略として社会や経済の変化に適応する必要性や、企業がどのように変革し、そのためにどの能力や技術が必要で、何を学ぶべきかといった具体的なビジョンを伝える必要があります。
同時に、従業員個人も変化を前向きに捉え、新たなスキルを身につける意欲を持つことが重要です。自己啓発とリスキリングへの積極的な意識を持ち、自身のキャリア発展に向けて努力する姿勢が求められます。
リスキリングの中でも、最近ではIT技術が特に注目されています。DXを推進する際には、専門知識を備えつつ、デジタルツールを駆使して問題の発見や解決方法を理解する人材が非常に重要とされています。リスキリングは、新しい機器や技術の使用だけでなく、課題解決の提案や推進を通じて、新たな価値を創造できるようにすることが必要です。
リスキリングの必要性・目的意識
AI 等の新技術の導入によって、新規事業の創出のみならず既存事業の業務プロセスの変化も進むため、リスキリングやデジタル技術への対応に本格的に取り組むには、全ての従業員が取り組むことが重要です。
新しい仕事のアプローチが従業員が浸透していなければ、仕事の課題を達成することは難しいです。しかし、自己啓発を積極的に行う者は多いとは言えず、さらに、自己啓発を支援するために実際に費用をかけている企業の割合も低いのが現状です。
従業員が従来とは異なる仕事のアプローチを習得し、課題解決能力を獲得するには時間がかかります。変化に適応できない従業員に対しては、企業は変化への対応の必要性を丁寧に説明し、その過程で新たなマインドセットを醸成し、実際の学習機会を提供する必要があります。リスキリングの支援やスキル取得に関する評価基準を明確にし、従業員に働きかけていくことによって、変化に柔軟に対応できる人材を増やしていくことが肝要です。
- 全ての従業員でないとDXの実現は困難
企業が本格的なDXを目指せば、バリューチェーン上のあらゆる場面で仕事のやり方や職務が変化する。その際、全ての従業員が新しい仕事のやり方に習熟したり、新たな職務の遂行に必要なスキルを獲得できていなければ、DXの実現は困難であるから。 - 仕事の課題感とデジタルの知識の掛け合わせが重要
企業がデジタル技術を活用して事業課題を解決していく上で、業務の非効率や顧客の声に接する第一線の従業員が、仕事の課題感とデジタルの知識を掛け合わせて解決策を提案・推進できることが重要だから。 - デジタルの知識なしだとコミュニケーションが難しい
管理職に就く人にとっても、デジタルの知識なしに部下や他部署とのコミュニケーションや意思決定を行うことが難しくなるから。
リスキリングには目的意識が重要
リスキリングは、なぜ学ぶのか、学んだ上で自分がどんな仕事ができるようになるかといった目的意識が重要です。企業がリスキリングの必要性を明確にし、積極的にリスキリングの機会を設けるとともに、経営者が自ら積極的に学んでメッセージを示すなど、労使でのコミュニケーションも重要と言えるでしょう。
一方、多くの日本企業が中小企業で占められており、瞬時に変わるビジネス環境の中で、企業の存続と成長のためには新たな事業展開などが必要です。このような切迫性から、中小企業にとってはリスキリングが不可欠です。
しかし、中小企業は人的リソースが限られているため、時間と大きな費用をかけずに、必要なタイミングでスキルを向上させる機会を提供する必要があります。また、社内の透明性や経営者の影響力も重要な要因となります。
一部の企業は存続の危機感から労使が共通の理解を持ち、リスキリングに成功しているケースもありますが、中堅・中小企業の経営者の中には、まだ一歩踏み出せていない方も多いのが現実です。
- デジタル技術の導入・活用やそれに伴う仕事の変化への抵抗が大きくなりやすい。
- 社外から必要な人材を柔軟に獲得することが難しい。
- 現場にとって使い勝手が悪くても、システムの修正コストを負担できない。
- リスキリングに時間をかけられない。
- 仕事での活用に直接紐づかない訓練や座学のみの研修、一斉研修には慎重になる傾向が高い。
弊社では、DXを進めていく上でポイントになるのは、中間管理職と考えます。企業はそのビジョンを明らかにした上で、中間管理職に、デジタルの基本的な知識や活用方法について知見を提供することが必要です。弊社ではそのための中間管理職研修や管理職研修も実施しております。
経営者のリスキリングと従業員のリスキリング
経営者のリスキリング
ビジョンの明確化、自社の経営課題解決におけるデジタル活用の戦略を描く。
従業員のリスキリング
- 使いこなしのリスキリング
従業員がこれまでと全く異なる仕事のやり方に習熟し、価値創造できるようにする。 - 変化創出のリスキリング
従業員が自らデジタル技術による課題解決を提案・推進できるようにする。 - 仕事転換のリスキリング
DXの進化に伴い、従業員がこれまでと全く異なる仕事に移行できるようにする。
個々の創意工夫を誘発する人材マネジメント
技術や産業構造の変化は急速に進行し、今後ますます事業や仕事の性質が大きく変わっていくでしょう。これに伴い、仕事や事業の性質も頻繁に変遷するため、主体的に自己啓発を行い、キャリアを築いていく能力がますます求められます。
近年、大企業でも転職入職者の割合が増加しており、IT化とDXの影響で専門的なスキルを持つ人材がますます重要視されています。このため、中途採用者を受け入れるための適切な賃金体系などをどのように整備していくかも課題となっています。
そのような中では、従来のような人事部による一元的な管理でやってきたような人材マネジメントから、多様性を尊重し、個々の創意工夫を誘発するような新しい人材マネジメントを展開していく必要があると考えます。
企業がIT化・DXに対応していくためのリスキリング
大企業の人事制度は、新卒一括採用・長期雇用・年功賃金が中心であり、雇用の確保に資する面がある一方、人事システムは減点主義になっており、失敗すると復活が難しいので、イノベーションを阻害しているのではないかという意見もあります。労働の対価として適正に評価・処遇されることは大前提ですが、従業員のリスキリングを推進するためには、新しいスキル取得による能力の向上や新しいことへの挑戦といった意欲も適正に評価・処遇することは、これまで以上に重要であると考えます。
また、企業がIT化・DXに対応していくためには、既存社員への Off-JT 研修等によるリスキリングも必要であり、やはり管理職のデジタル技術の知識や業務のデジタル化への理解が重要と言えるでしょう。
- 従業員一人ひとりの専門性の強化、人材の多様性の確保により、最適な人員配置が実現している。
- 従業員一人ひとりが自らの強み・課題を認識し、自ら育ち、成果を出すという高い意識を有している。
- 男性も女性も様々な働き方が可能となり、暮らしが充実することで、仕事に対しても高い意欲で取り組んでいる。
- 従業員一人ひとりが自らの成長やキャリア形成について、長期的な見通しと自信を持ち、満足している。
- 働きやすく、成果を生み出しやすい職場風土が醸成されている。
↑
- 人材ポートフォリオを踏まえた、高度・複雑な企業課題等に対応できる人材の確保・育成
- 従業員が高いパフォーマンスを発揮し続けるための仕組みづくり
- 働き方の多様化への対応を通じた自発的な能力開発等の推進
↑
- これまでの人事制度を見直し、採用・退職、能力開発・研修、人事評価・給与、異動・任用といった各領域の人事施策を、首尾一貫した方針に基づき一体的に実施する。
- 個々の従業員に強みや課題を認識させるとともに、多様な働き方の選択を可能とすることで、自らのキャリアを主体的に考え、そのキャリア形成に向けて自発的に成長していくことを支援する。
- 数値目標を盛り込むことで、PDCAを「見える化」する。
日本ではホワイトカラーを中心としてジョブ型人事を導入する動き
企業の中には、いわゆるジョブ型人事と呼ばれるような人事制度を新しく導入する動きが出てきています。このような人事制度の導入については、企業が導入の目的や働く人に何を求めるかが重要です。
ジョブ型雇用は、狭義には職務が雇用契約に明示的に記載され、それに応じて労働時間も制約される雇用形態です。この雇用形態は、徹底的な分業の中で特定の職務に焦点を当てた雇用管理を指し、特に欧米ではブルーカラー労働者を中心に採用されてきました。
近年、日本でも、ホワイトカラー労働者を中心に職務と待遇を明確化する観点から、ジョブ型雇用の導入が進んでいます。しかし、欧米で確立されたジョブ型雇用と比較すると、日本では従来から企業が持っていた人事権が強力であり、この新しい雇用形態の導入に際しては、若手の育成を妨げる可能性があるジョブローテーションの実施が難しいという課題も浮上しています。
多様な人材の才能を最大限に活用し、新たな人材を育てる障壁を取り除くためには、企業内での労使双方の対話が重要です。
- ポストに見合った人材を広く社内・社外から求める必要がある。
- キャリアアップに伴う再教育支援の仕組みが不可欠である。
- 労働者一人ひとりのキャリア志向に対応する必要がある。
- 職務以外の情報共有や組織貢献意欲を促す仕組みが不可欠である。
そのため、ジョブ型人事の導入に当たっては、事前に丁寧な労使コミュニケーションを行うことが必要であり、導入に当たっては、企業の目的や戦略を明らかにすることと、従業員のキャリア自律やスキル取得の機会を確保することが重要です。つまり、企業としてジョブ型人事を適用していく際には、従業員一人ひとりが持つ特性や資質が重視されることが重要と言えます。
人事評価制度に透明性や客観性が求められる時代に
日本においても、ジョブ型人事と呼ばれる人事制度を導入している企業は増えていますが、欧米のジョブ型雇用とは異なるアプローチを採用しているケースがあります。具体的には、①新卒採用時には職務遂行能力ではなく潜在能力を重視し、採用後に一定期間の研修を行うこと、②本人の希望による公募制を採用しながらも、最終的な人事異動の権限は会社に委ねるという「メンバーシップ型人事」の要素と「ジョブ型人事」の要素を組み合わせています。
今後、各企業においては、経営戦略に最適な人事制度を考案することが非常に重要です。たとえば、トヨタ自動車はメンバーシップ型の雇用形態を採用しており、これは企業のDNAに「モノづくりは人づくり」という確固たる価値観が根付いているとともに、人間性を重視し、中長期的な視点で人材を育成する能力があるかもしれません。しかし、これだけに限らず、すべての企業が同じアプローチを採用できるわけではありません。
なぜなら、ジョブ型雇用は「雇用や評価に透明性をもたらす」という利点があり、経済成長期の時代とは異なり、現代では人事制度に納得感や透明性が求められています。環境が急速に変化する現代において、企業の雇用システムや人事評価制度は従来の方法にとどまることなく、変革が必要です。それが、優秀な人材を獲得し続け、確保するための不可欠なステップです。
- 公平性の原則
評価される側は他人と同じ土俵で評価されることを望む。それゆえ、決められた一定の期間において、全員を同じ方法で評価する。 - 客観性の原則
評価者による差異を極力少なくするために、決められた基準や項目で評価を実施する。ゆえに評価者に対する教育や訓練を行い、尺度の差を少なくする。さらに差を少なくするために、評価基準や評価項目を具体的に明記し、評価内容の確認や評価者同士の基準のすり合わせを行う。 - 透明性の原則
客観的に評価を行なうために設けた基準や項目を、評価される側に公開する。具体的に記述された評価項目とその内容は行動指針にもなる。評価シートを目の前にして、できている項目やできていない項目を上司と部下で話し合う。
企業に求められる対応と従業員に求められる対応
企業に求められる対応
企業が成長していくためには新たな技術を労働者が身につけることが必要であり、リスキリングの必要性を明確にした上で、経営者、管理職、現場従業員の全てのレベルで、リスキリングを含めた能力開発に主体的に取り組んでいくための動機付け、環境整備が必要です。
しかし、日本の企業は欧米と比較して人材投資が著しく少ないのが実態です。
人材投資をコストとして捉えるのではなく、無形資産投資や非財務価値を高める意識が重要です。学んだことに対する価値、身につけたスキルに対して対価を払うことや、自社内でのスキルに見合った人材の再配置を行うことによって、結果として企業にリターンが返ってくるので、学び直しやスキル取得のインセンティブを高める好循環を作っていく必要があります。
管理職には一人ひとりに合った繊細なマネジメントが必要
また、多様な人材が働く現代において、キャリア志向やワークライフバランスの確保、エンゲージメントの向上は重要なテーマとなっており、管理職には一人ひとりに合った繊細なマネジメントが必要です。特に、新型コロナウイルスの影響でテレワークの普及が進み、管理職は従来の「目の前にいる部下」から「在宅勤務をする部下」へと適切な業務の配分や管理を行う必要が生じ、管理職や中間管理職の業務内容と負担が大幅に変化しました。
このため、人事部門においては、管理職向けの研修プログラム(例: 1on1ミーティングの実施方法に関する研修など)の充実と改善、管理職の業務負担軽減策の開発が不可欠です。企業活動に従事する労働者は、雇用形態や属性に関わらず、価値創造の重要な要素です。企業は、全ての労働者に対して、労働条件の向上やキャリア形成に貢献する能力向上の機会を提供し、その責任を果たす必要があります。
従業員に求められる対応
多くの変化が短期間に起こる現状においては、過剰に変化を恐れるのではなく、変化を前向きに捉えて対応していくことが求められます。経営者、管理職、現場従業員の全ての階層で、リスキリングに主体的に取り組んでいく必要があるのです。先述した産業構造の変化や、AI等の新技術の導入による働き方を取り巻く環境の変化に対応していくため、従業員自らが自律的にキャリア形成や学びを深めていくことが必要です。
現在の加速する社会・経済の変化の中では、働き方や必要とされる職業能力も短期間に大きく変化していきます。大きく変化していく環境においては、企業による人材育成に加えて、一人ひとりの従業員が職業能力を高めていけるよう自律的にキャリアについて考えることも必要です。企業の取組だけでは十分に機会が確保されないことも想定されます。このため、リスキリングについても、従業員一人ひとりが力強く成長できるよう、意識して取り組んでいくことが重要です。
ジョブ型雇用に不安ならSトレにお任せください
ジョブ型雇用やメンバーシップ型雇用はあくまでも仕組みであり理念ではありません。企業で従業員が「はたらく」ことの意義から逆算し、制度の導入を検討すべきでしょう。
日本型の雇用について何らかの改善施策を打つことは必要かもしれませんが、「ジョブ型雇用」か「メンバーシップ型雇用」かの二択で考えるのではなく、自社の実態に合わせた最善策を検討する必要があります。
また、ジョブ型雇用に関する正しい理解の不足や判断に不安を感じる場合には、外部の知見や支援も有効と考えます。経営者だけが知識を習得しても、幹部・管理職以下が理解し、その下の現場従業員まで正しく浸透していかなければ、組織の改革にはつながりません。
ジョブ型雇用にはメリットも多くありますが課題もあるため、メンバーシップ型雇用を継続しつつ徐々に移行するとよいでしょう。尚、ジョブ型雇用が良い悪いというのではなく、新たな制度を導入する際には企業全体の大改革が必要であるということを理解した上で、特に関係者は団結し、1人の力では動かせない大きく重い石を転がしていくように力を併せて前進をさせていくことが何より重要です。その上で外部の力を借りて進めていくことは有効だと考えますので、弊社にもお気軽にお問い合わせください。