管理職は、業務命令の重要性を正しく理解する必要があります。理由として、部下へ指示・指導する際、業務を滞りなく遂行することや部下を成長させることも含まれるからです。
また、成果を出すには「高い心理的安全性」と「高い仕事の基準」がセットになっている必要があります。
心理的安全性は組織内で良質なコミュニケーションがきちんととれるチームを作っていく上で必要なことですが、もう一方の「高い仕事の基準」とは何を意味し、なぜ必要なのでしょうか。
その理由は、心理的安全性が高いだけでは、組織として成果を出し続けることはできないからです。仕事の基準を設けて、全員でその基準を守り、さらに基準を高めていくことができれば、大きな成果を生み出すことができるでしょう。
今回は、管理職に必要なスキルの一つである「業務のマネジメント」について考えていきます。
「管理職」の定義は「管理職-Wikipedia」からご確認ください。
INDEX
管理職による業務のマネジメントとは
管理職に求められる役割に、チームメンバーである部下に仕事を割り振り、部下一人ひとりが目標達成に向けて円滑に業務を進めていけるように支援する、業務のマネジメントがあります。
前回のコラムでは、マネジメントの基盤を作るための良質なコミュニケーションの実践方法について述べました。
今回は業務のマネジメントを理解し、職場で実践するための方法をお伝えします。
管理職としての仕事は、「他者」を通じて成果を挙げること
管理職には、司令塔・監督の役回りが求められます。これまでは自分が主体的に行っていたことも、チームメンバーである部下に任せていきます。そして、チーム全体としての成果を最大化することを目指していくのです。
管理職がプレイヤーとして仕事に忙殺されてしまうと、チーム全体を見る人がいなくなり、チーム全体のパフォーマンスに影響します。管理職にしかできないこともありますので、管理職はプレイヤーとしての仕事ではなくチーム全体を見る意識を持つことが重要です。
- チームが行うべき仕事の決定
組織の目的、目標を踏まえ、チーム全体として何をすべきか、また何をやらないか・止めるかを判断します。 - 部下を活かす効果的なジョブ・アサインメント
チームの人員や予算を踏まえ、効果的なジョブ・アサインメントを実施します。ジョブ・アサインメントとは、組織の目標を踏まえ、部下に行わせる職務を具体化した上で割り振り、その業務を達成するまで支援することを意味します。
管理職が陥りがちな行動パターンと悪影響
前述の通り、管理職には「他者を通じて成果を挙げること」が求められます。しかし、管理職自身が頭では理解していても、行動に移すことができていないケースが多いです。
行動変容を起こすことは容易ではなく、非常に大きな圧力がかかります。それでも、短期的な視点では従来のままで良いかもしれませんが、長期的な視点で見ると後進に引き継ぐことは重要です。
上記を踏まえ、まずは管理職が陥りがちな行動パターンとそれによる悪影響を理解しましょう。
- 全て自分でやってしまう、部下に事細かく全て指示する
部下が能力を発揮できず、チームとしての成果は管理職1人分にしかなりません - 全て部下に任せ、報告・成果が出てくるまで待つ
部下の能力以上の成果が出ず、部下は管理職に対して無責任であると感じ、意欲も減退しかねません
業務をマネジメントする行動を4段階で確認する
ではどのようにすれば、管理職としての役割を果たせるようになるのでしょうか。業務をマネジメントする行動を、4段階で確認していきます。
その1:やるべき仕事・やめる仕事の決定
管理職は、チーム全体の目標を定め、それに向かって何をやるべきか、何をやらない・やめるかを判断し、チームが行うべき仕事や仕事量を把握・決定していく必要があります。
チーム目標の下、チームがやるべき仕事を取捨選択したり、やるべき仕事について具体的な目標を決定することで、部下を活かす効果的なジョブ・アサインメントを行っていくことが、管理職の役割です。
【チームの目標とやるべき仕事を決定すると、どのように変わるか】
- 担当業務の重要性を理解できず、部下が仕事に納得感を持てない
- 不要不急の仕事を割り振り、部下の時間を無駄にしてしまう、部下の不満もたまる
- 各業務のスケジュールやゴールがわからないと、それぞれの部下の業務量がわからず、負担の偏り、業務過多による業務の遅れ等が起きる
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- 部下は、納得感と意欲をもって、目標に向かい、仕事をすることができる
- 不要業務を削減し、個々の部下に本当にやるべき仕事を割り振ることができる
- 仕事の全体像から適切な業務分担を調整・決定することができる
その2:誰が何をどこまでやるべきかの決定
チームメンバー(※以下、メンバー)である部下の職務(目標)を具体化し、割り振りを行っていく必要があります。
チーム内における業務分担の見える化・共有化を行っていくことが、管理職の役割です。
【目標を具現化すると、どのように変わるか】
- 管理職がすべて考え、部下に一つ一つの作業を指示しなければならない
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- 部下は目標を踏まえて、自ら考え、業務を前に進めることができ、部下の成長も促される
【部下へ仕事を割り振ると、どのように変わるか】
- チーム全体の仕事を見る余裕がなくなり、 適切な業務分担や状況に応じた調整ができない
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- 管理職は部下を活かす効果的なジョブ・アサインメントに注力できる
【業務分担の見える化・共有化をすると、どのように変わるか】
- 業務負担に関わらず、頼みやすい人、目の前にいる人に頼んでしまう
- 他のメンバーが知っている(または気付いた)情報や知見、リスク等が共有されず、作業の重複、非効率、リスク見落としの恐れがある
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- 業務分担についてメンバーの納得感が高まり、緊急対応が発生した際にも管理職はどのメンバーにやってもらうかの判断がしやすくなる
- チーム内の情報共有や支援が生まれ、チームとしての一体感が生まれる
その3:業務の進捗状況の把握と支援
メンバーの業務分担等を柔軟に変更・調整することで、失敗のリスクを減らし、各自の業務遂行を成果につなげていく必要があります。
【進捗状況の把握・支援をすると、どのように変わるか】
- 成果が間違っていても自分のところに報告がない限りわからない。期限到達前後で成果が達成できないことがわかる
- 既に意味のない業務を続けてしまっていた
- A案件の業務の増加により、B案件に手が回らなくなり、期限が過ぎてしまった。C案件の担当はその間余力があったので、B案件をやってもらうことができたはず
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- 部下が迷ったり、躓いているところを早い段階で察知し、成果を挙げるための支援を行える
- 状況変化に応じて、業務の目標(期限や成果等)を柔軟に変更することができる
- 業務の進捗状況に応じて、業務分担の調整を行うことができる
その4:成果・ミッション達成の確認
部下から成果が挙がってきたり、期限に到達したら、その時の成果を確認し、部下の業務を完了させるか、更に部下に業務を続けてもらうかを判断する必要があります。
そうすることにより、部下は業務を継続するか否か、別の業務をすべきか等迷わず、完了させる場合、管理職が次の業務を割り振ることもできます。
また、管理職は、一連の業務遂行における自身のマネジメント行動を振り返る機会を持つ必要があります。より良い行動はなかったか、もっとこのように行動すればよかった等、振り返ることで気づきが得られ、その気づきを次のマネジメント行動に活かすことで、自身のマネジメント能力向上につながっていきます。
- 部下との間でコミュニケーションミスがなかったか
- 業務の進捗が適切に把握できていたか
- 部下が成果を挙げることができるよう、適切なタイミングで業務の支援が行えたか
- 業務全体の中で、更に効率的にできるところ等、見直しできる余地はなかったか
管理職による業務のマネジメントまとめ
マネジメントには、管理職にしかできない、部下を活かすための効果的な業務分担や進捗把握・支援方法が存在します。「業務をマネジメントする」ことは、管理職の仕事であり、管理職の特権です。
チームでやるべき仕事が決まったら、部下に対して具体的な業務を割り振りますが、優先順位(重要度、緊急度等)を考慮した目標を設定し、それを示すことで部下は自ら考え、業務を進めていくことができます。
そのために、管理職は以下のことを明確化し、チーム内で共有していくことが重要です。
- 業務の目的・期限・目指すべき成果は何か
- 先行きの見通し、目標達成の阻害リスクは何か
- 各業務の緊急度・重要度と、それを踏まえた優先順位はどうか
- 上記の要素を踏まえた上で、各業務の期限・目指すべき成果の調整は必要か
業務をマネジメントすることで、1人では達成できないことも、チームで達成することができるようになるのです。