近年、セクハラ・パワハラ・情報セキュリティ等に端を発する不祥事が顕在化しており、労働環境の悪化や生産活動の停止等により、企業の生産活動に悪影響が生じています。こうした事態に対して、問題の発生を抑制するためには、管理職の方々を対象とした教育・研修を実施することが効果的と考えます。そのため、今回のコラムは管理職の皆さんを対象に記載いたします。
本コラムを管理職の方に読んでいただきたい理由は、下記の2点です。
- 職場で発生する可能性のあるトラブルとその対応方法について理解していただく
- リスクマネジメントの基本的な考え方と対応手順を理解していただく
現場管理職の皆さんは日々様々な問題やトラブルに直面されています。そういった問題やトラブルの未然防止・再発防止を検討される際に、知っておいていただきたいリスクマネジメントの基本的な手順について記載いたします。知識を習得していただいた後は、本内容を社内教育に活用していただけましたら幸いです。
INDEX
企業不祥事の変遷
2000年代以降に起こった主な企業不祥事のうち、その時代の特徴を表したものを記載します。
以下の表と併せてご覧ください。
年代 | 年 | 業界 | 代表的な不祥事事例 |
---|---|---|---|
2000年代 | 2000年 | 食品メーカー | 乳製品の生産設備において停電が発生し、基準を超える病原菌が発生したが、製造責任者が隠蔽し、市場に流通したことで約15,000人に上る集団食中毒が発生した。 |
2000年 2004年 | 自動車メーカー | 18件約69万台にのぼるリコールに繋がる重大不具合情報を監督官庁へ報告せず、社内で隠蔽していることが内部告発により発覚した。 その後も74万台にのぼるリコール隠しが発覚し、一連のリコール隠しにより2件の死亡事故が発生した。 | |
2007年 | 飲食店 | 賞味/消費期限の改ざん、産地偽装、食べ残しの再提供などを経営陣の指示の元、恒常的に行っていたことが内部告発をきっかけに発覚。 | |
2010年代初頭 | 2011年 | 精密機器メーカー | バブル期の巨額損失を隠すために経営陣主導で不透明なM&A取引と会計処理を行っていたことが週刊誌で報じられ、独自調査を行った社長が解任された。 |
2011年 | 製紙メーカー | 創業家出身の経営者が子会社から取締役会の決議や賃借契約を作成しないまま個人的な融資を受け、多額の未返済融資が発生したため、特別背任で逮捕・起訴された。 | |
2015年 | 総合電機メーカー | 経営トップ主導で利益の水増しや不適切な会計処理の強要など一連の不正を行い、7年間で1500億円以上の利益のかさ上げをした。 | |
2010年代後半 | 2015年 | 広告代理店 | 長時間労働が常態化していた状況で、上司による勤務時間の過少申告の指示、セクシャルハラスメント・パワーハラスメントが行われたことで従業員が自殺した。 |
2018年 | スポーツ団体 | 特定の選手に対するパワーハラスメント発言や練習の妨害等の事案が第三者員会によって認定され、スポーツ団体としてパワーハラスメントの事実があったとされ、選手強化本部長が引責辞任した。 | |
2019年 | 飲食チェーン店 | アルバイトの従業員がSNSに職場における不適切な動画を投稿した結果、情報が拡散し社会問題化した。当該企業は全店舗一斉休業し、従業員の研修を行った。 |
2000年代
食品メーカーによる大規模な食中毒や食品偽装、自動車メーカーによる大規模なリコール隠しなどがメディアで大きく取り上げられました。
これらの不祥事では、企業トップのメディア対応のまずさが注目を集めましたが、皆さんに注目していただきたいのは、これらの不祥事発覚のきっかけです。2000年代に記載している3件とも発覚のきっかけとなったのは、従業員等による内部告発です。
2003年がCSR経営元年と言われていますが、このころから企業の社会的責任という言葉が浸透し始めたことから、順法意識も高まり、企業の不祥事を内部から告発する動きがみられるようになりました。
2010年代初頭
企業トップによる不適切な会計処理に関連する不祥事がいくつか発生しました。これらの不祥事をメディアが報じる際に言及していたのが、企業統治のあり方です。
CSRに対する社会全体での理解が進み、企業は経営者のためのものではなく、株主・従業員・取引先などをはじめとしたステークホルダーを意識した経営が求められるようになり、そうした経営管理体制が十分に整備されていない、もしくは機能していないことが問題視されました。
2010年代後半
コーポレートガバナンスに関する不祥事に加え、より職場での問題や部下マネージメントに起因する問題が企業不祥事として注目を集めるようになりました。この背景には、ワーキングプアやブラック企業などの劣悪な労働環境を表現する言葉が一般化し、職場環境に対する関心が高まったことや、社会全体として人権を尊重する意識が醸成されたことがあります。
各種ハラスメントに対して、厳格に対処されるようになったり、職場に多様な従業員が混在するようになり、職場のマネージメントが難しくなってきた状況に対処しきれていなかったりしたことが考えられます。メディア等で取り上げられる企業不祥事が、企業の問題だけでなく、職場の問題も対象となってきています。
近年、コンプライアンスに対する社会の意識が急速に高まっていることから、企業不祥事が発生した際には、ステークホルダーに対して情報開示をしていくことが求められています。そのため、これまでは社内対応で処理できていた不祥事も、外部に対して情報開示されます。
その結果、取引先との取引中止や営業活動の停止といった事態に陥ったり、不祥事の事後対応で職場が機能不全に陥ったりする可能性があり、決して他人事として捉えることはできません。
次に皆さんの職場でも起こりえる可能性の高い不祥事の例を記載します。
企業を取り巻くリスクと対応
どの不祥事も悪意のない出来事がきっかけであったとしても、顕在化した後では、その対応次第で企業活動に大きな影響を与えてしまう結果に繋がります。
問題を顕在化させないためには、平時から対応を講じておくことや、顕在化した際の対応を決めておくことで、影響を小さくすることができます。
企業には様々な不祥事やトラブルに繋がるリスクがあります。一般的に、企業が保有するリスクは、以下の表のように分類できます。
分類 | 全社的対応 | 職場の対応 |
---|---|---|
自然災害リスク | ● 建屋・設備の耐震化検討 ● 災害発生時の事業継続体制の構築 | ● 職場の減災対策 ● 従業員との連絡体制の整備 ● 災害発生時の仕入れ先等の代替先の検討 |
オペレーショナルリスク | ● 事務処理のシステム化・機械化の推進 ● 情報セキュリティ対策の検討 ● 内部監査体制の構築 | ● 業務手順の見直し・標準化 |
コンプライアンスリスク | ● 遵法意識醸成に向けた教育・研修の実施 ● 社内規程の整備・見直し ● 内部通報窓口の設置 | ● 業務手順の見直し |
環境リスク | ● 自然災害・設備故障等による有害物質漏洩等の対応策検討 ● 土壌・地下水汚染等の把握 | - |
人事・労務リスク | ● 労働法規に関する教育・研修の実施 ● 働き方改革の推進 ● ストレスチェック制度の運営 | ● 勤務時間・休暇取得状況の把握 ● ハラスメント防止の意識醸成 |
戦略リスク | ● 新規事業・海外進出・企業買収・設備投資等のリスクの把握 | - |
出典:大和総研(2015),「「攻め」のリスクマネジメントに向けて」
自然災害リスク、オペレーショナルリスク、コンプライアンスリスク、環境リスク、人事・労務リスク、戦略リスクのように分類することができ、これらの分類ごとに全社的な対応、それらを受けて実施される職場の対応といった形で対応手順が定められます。
職場で起こりうる主な不祥事・トラブル
「ヒューマンエラーの発生」、「ハラスメントの発生」、「メンタルヘルス不調者の発生」、「長時間労働の発生」の4つは特に職場で発生しやすく、対策の重要性が高いです。
不祥事の内容が移り変わり「職場」の問題に焦点が当てられてきています(バイトテロ等)。また、規模の大きな企業だけでなく、中小・零細企業もリスクにさらされていることを自覚する必要があります。
では、どのようなリスクを予期して準備しておけばよいのでしょうか。
以下に記載します。
対策の優先度が高いリスク
以下は「発生頻度」と「発生した際の影響」の両方が高いため、対策の優先度が高いと言えるでしょう。
項目 | 例 | リスク |
---|---|---|
ヒューマンエラーの発生 | 不注意によるメールの誤送信 | 顧客からのクレーム・情報流出 |
安全確認の怠り | 怪我 | |
ハラスメントの発生 | パワハラ、セクハラ、マタハラ | 特にパワハラは対策について法制化されたこともあり、企業が訴訟対象となる可能性も高くなった。 他の2つは「男女雇用機会均等法」や「育児介護休業法」で対策が義務付けられている。 |
長時間労働の発生 | メンタルヘルス不調者の発生 | 過重労働撲滅特別対策班(かとく)が発足されたり、法改正があったりと取り締まりがどんどん厳しくなっている。 |
再発防止事例
「ヒューマンエラーの発生」、「ハラスメントの発生」、「メンタルヘルス不調者の発生」、「長時間労働の発生」の4つについて、発生防止のための標準的な取り組み事項を記載します。
項目 | 未然防止 | 発生後の再発防止 |
---|---|---|
ヒューマンエラーの発生 | ①提供サービスにおける人的ミスのリストアップ ②対策が打たれている人的ミスの消し込み ③人的ミスの要因検討 ④人的ミスの対策案検討 ⑤対策の実施 | |
ハラスメントの発生 | ①良好な職場環境を維持する役目 ②雇用管理上の危機管理の問題であるという認識 ③自社の方針、防止対策を知ること ④決して行為者にならないこと | ⑤事案が生じた場合の相談対応者としての役割 ⑥事後対応のキーマンとしての役目 |
長時間労働の発生 | ①時間外・休日労働時間の削減 ②健康管理体制の整備・健康診断の実施 | ③長時間労働者に対し面接指導等を実施 |
ヒューマンエラーをなくすための取り組みステップは、「提供サービスにおける人的ミスのリストアップ」「対策が打たれている人的ミスの消し込み」「人的ミスの要因検討」「人的ミスの対策案検討」「対策の実施」の5点があり、管理職はそのすべてに関与し推進していくことが重要です。
職場におけるハラスメントを防止するために、管理職としてどのように対策に係わるべきかについて、6つの観点があります。
長時間労働の発生と、それによる健康障害を防ぐためには3つの取り組みが必要です。
特に「時間外・休日労働時間の削減」については、管理職の果たす役割が影響します。
不祥事の変遷から学ぶリスクマネジメントまとめ
ここまで、企業不祥事の変遷から企業を取り巻くリスクと対応、職場で起こりうる主な不祥事・トラブルと、対策の優先度が高いリスク並びに再発防止事例について記載しました。具体的に管理職はどのようにリスクマネジメントを実践していくべきなのでしょうか。管理職のリスクマネジメントについては【管理職向け】効果的なリスクマネジメントの具体的な方法とは?事例を元に詳しく解説に纏めましたので是非ご覧ください。