「学びの自律化」の重要性と方法!管理職が行う1on1ミーティングも重要!

管理職が行う1on1ミーティング

人材不足が叫ばれて久しい日本の労働市場。急激にニーズが高まっているAI技術者、データサイエンティストなどのIT人材はもちろんのこと、ITとは直接関係しない中小零細企業でも人手不足が深刻化しつつあります。今後は労働人口の減少によって、人材不足、労働者不足は一段と進むことでしょう。

このような状況を踏まえ、政府や各省庁も「教育・人材育成」「労働移動」などの側面からさまざまな取り組みをはじめています。

今回の記事では、政府の方針と組織人事コンサルティングファームの立場から、中小零細企業で実践が必要な「学びの自律化」の重要性と方法について記載します。

自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直しの促進

自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直しの促進

今企業は、新たな成長に向けた人材戦略とりわけ人材開発(人への投資)における「学び・学び直し」の重要性を十分認識し、全ての社員が、やりがいや働きがいを持ってその能力を十分に発揮できるよう、学び・学び直しを強力かつ継続的に支援することが求められています。

その理由として、「OJTをとりまく環境の変化」「OFF-JT や自己啓発支援の強化の必要性」「世界の変化」が挙げられます。

OJTをとりまく環境の変化

これまでの日本の企業内の人材開発は、Off-JTよりもOJTを重視してきました。OJT を重視した人材開発は、上司や先輩による指導を通じた実際の業務に即した実践的な学びを期待することができ、これまでの日本の「現場力の高さ」を生み出し、日本企業の高い競争力を支えてきました。

しかし、ここで企業は大きな問題に直面しました。

それは事業の成長を担う人材が圧倒的に足りないという点です。海外拠点の幹部、M&A先の企業に送り込める人材、多くの部門や提携先など複雑な利害がからむプロジェクトの推進者、国内の営業部門の構造改革をする参謀人材など、成長戦略にとって必要な人材が足りないことが分かったのです。

OFF-JT や自己啓発支援の強化の必要性

日本企業の人的投資の状況をみると、OJTを除くOff-JTや自己啓発支援の費用は、2010-2014年において対GDP 比で0.1%です。これは米国(2.08%)やフランス(1.78%)など諸外国に比べて低水準にとどまっており、また、近年低下傾向にあります。

2010-2014年のOff-JTや自己啓発支援の対GDP比
対GDP費
米国2.08%
フランス1.78%
日本0.1%

これまでのOff-JTに支出した企業割合と、一人当たりの額の平均の推移を見ると、企業割合は徐々にではありますが増えていました。しかし、コロナ禍になりその影響から支出した企業割合、労働者一人当たりへの平均額は減少しています。コロナ禍により一変した社会、生活。そして社員の働き方への価値観も変わりました。

Off-JTに支出した企業割合

調査結果の概要 1 企業調査 – 厚生労働省

企業は、この社会の変化と価値観の変化に対応した人材育成の指針策定と実行が求められるようになりました。つまり、従来は「毎年行ってきたから」という理由で研修を実施してきましたが、今後は、「今後数年を見通して、会社の経営計画とそれを実現するために必要な人材はどのような人材なのかを明確にし、それに則した研修の企画と実行」がより重要視されるようになったのです。

世界の変化

世界各国において、持続可能性や人を重視し新たな投資や成長につなげる、新しい資本主義の構築を目指す動きが進んでいます。世界的に DX 時代が到来しようとしている中で、OJT の強化だけでなく、企業におけるOff-JT や自己啓発支援を大幅に充実・強化する必要があると言われています。

近年になって、人材投資の重要性があらためて注目されています。デジタル化の進展やAIの発達等によって、産業構造が急速に変化している中で、新たな環境に適応した能力開発の重要性が指摘されているからです。このような中で、日本政府も「人への投資」ということで、人材投資を促進するような政策を打ち出しています。

「協働」の必要性

「協働」の必要性

社員の自律性・主体性を尊重した学び・学び直しを、企業全体の力を高め、社員と企業の双方の持続的な成長につなげていくためには、企業が目指すビジョン・経営戦略といった基本認識を労使が共有することが重要です。

企業のビジョン・経営戦略やこれらを踏まえた人材開発方針などにより、学び・学び直しの必要性を労使が共有し、協働して取り組むことは、社員の学びに対する内発的動機付けにつながります。

内発的動機付けとは

主体的に学び・学び直しに取り組もうと思うこと

また、必要となる能力・スキルの方向性と個々社員の学び・学び直しの方向性・目標に関する労使の「擦り合わせ」が必要です。擦り合わせた学び・学び直しの方向性・目標に基づいた自律的・主体的な取り組みが継続されるためには、社員に対する企業による伴走的支援が重要です。

そのために、「管理職の育成」と「企業文化の醸成」は必須と言えます。

現場のリーダーの役割

企業が目指すビジョン・経営戦略の浸透を図り、個々の社員の学び・学び直しの方向性・目標の「擦り合わせ」と伴走的支援を的確に行うためには、その間に立つ管理職の役割は極めて重要です。

管理職等の現場のリーダーは、個々の社員の身近な存在として、キャリアに寄り添い、部下の学び・学び直しを含めたキャリア形成をサポートする役割も担っています。

上記手法の1つが「1on1ミーティング」です雇用形態や働き方だけでなく、考え方も多様化するなか、1on1ミーティングというマネジメント手法を取り入れる企業は、今後も増えて行くでしょう。

「学びの好循環」の実現

社員が自律的・主体的な学び・学び直しを継続的に行うための協働した取り組みには、時間と労力はかかります。しかし、これにより学びの気運や企業文化・企業風土が醸成・形成されれば、その後の変化に対しても、学びが自走的に進むことが期待されます。これは、労働者のエンゲージメント職場満足度の維持向上企業の持続的成長にもつながります。

企業文化とは、社員と企業との間で共有している価値観や企業行動規範のことを指します。企業文化は目に見えるものではなく、企業としての行動や考え方の指針となる価値体系のことです。そして企業活動にも影響を大きく与えます。

「社員が自律的・主体的な学び・学び直しを継続的に行う」ことが企業文化になれば、「学びの好循環」が実現されるわけですが、ここにも1on1ミーティングが活用できます。「誰かに話ができる」という環境が、社員個々が持つ力を発揮するために非常に役立つのです。

社員のパフォーマンス向上にも

仕事に取り組む中で生まれたアイデアを、企画に落とし込めるところまで聞いてくれる相手がいることは、社員のパフォーマンス発揮に寄与します。

外部の教育研修プログラムの活用

外部の教育研修プログラムの活用

企業が「自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直しの促進」をする上で、教育研修プログラムを提供する外部教育機関を活用することも良いでしょう。

どの企業においても、必ずしも自主的に学びを継続できる社員ばかりではありません。雇用形態に関わらず、学び・学び直しを促し、最後まで教育研修プログラムを遂行するためには、定期的・継続的な助言や精神的なサポートをする、「伴走支援」ができる人間を配置する必要があります。特に中小零細企業においては、戦略人事や人事部を設置していない企業が大半で、管理部の社員が兼任している場合も多いです。

しかし、政府も推奨する人材開発を他業務と併せて兼任することは、担当業務に支障をきたすことや負荷もかかります。

そこで、戦略人事の役割を担い、人材開発を推進できる外部教育機関を活用することで、より効果的に良い変化をもたらすことができます。

身に付けた能力・スキルの発揮

学び・学び直しは、単に「学んだ」だけで終わるのではなく、学んだ後に業務に活かしてこそ意義があります。また、学んだことを業務で実践することで、身に付けた能力・スキルが定着するという効果が期待されます。

学び・学び直しを行う上では、事前に企業と社員が方向性・目標を擦り合わせ、共有することに加え、企業は、社員が学んで身に付けた能力・スキルを業務として活かすことができる実践の場を提供することが重要です。

「社員に研修で学んだことをアウトプットさせればいいのでしょう?」と言う方がいらっしゃるかもしれません。しかし、単に社員に行わせるだけでは、折角の取り組みも作業化してしまったり、社員各自の判断基準で「自分はできている」と捉えてしまうことにつながる可能性も大いにあります。

経験学習の基本的な考え方は、仕事で実際に経験したことを振り返り、そこから教訓を引き出して次へつなげていくというものですが、この「経験→内省→教訓を引き出す→試行する」というサイクルを常に回させる必要があります。

  1. 経験
  2. 内省
  3. 教訓を引き出す
  4. 試行する

また、自分の経験を振り返り、自問自答することを意味する「内省」は、日々の業務対応に追われていると後回しにしてしまう上に、自分一人では内省の範囲が狭くなりがちです。

そこで、外部の戦略人事担当者が、社員の日常の悩みや不安、業務に関する課題、成功体験をヒアリングして、継続的に耳を傾ける場として1on1ミーティングを行いながら、業務の中で実践、内省させることで、社員は学びを定着させることができます。

キャリア面談の実施

企業と社員の双方がキャリアについて考え、話し合う機会を設けつつ、本人の意欲・意思を尊重した多様な実践の場を提供することにより、より自律的・主体的な学び・学び直しを促し、持続的なキャリアの形成につながることが期待されます。

コロナ禍は、「従来の当たり前が、一瞬で当たり前ではなくなる」ことを世の中の人々が体感する機会になりました。知識の暗記ではなく、今社会で起きていることを理解し、何が問題でどうすれば解決できるかを自分なりに考えて言語化する力が求められます。決まった正解へのたどり着き方ではなく、問題が何かを特定する力というのは、今後益々企業においても求められる能力となるでしょう。

例えばこれからの時代に求められるサービスを新たに作るという話が挙がった際、その道何十年のベテラン社員のアドバイスやその方が歩んでこられたキャリアが役に立つことも多々ありますが、予測不可能な世の中においては必ずしもそれが正解ではありません。そこで、外部の戦略人事担当者と接することで、世代も含めて多様な価値観を持つ人たちの知恵や発想やひらめきを出し合い、混ぜ合わせ、自分自身のキャリアを自分で設計していくことにつながります。

企業が社員に「学び自律」を促すことが大切

企業が社員に「学び自律」を促すことが大切

政府がリスキリングへの公的支援を表明するなど、ビジネスパーソンの学び直しや主体的なキャリア形成は日本全体の課題となっています。しかしその一方で、社員の学び直しの支援に頭を悩ませる企業も少なくありません。

特にミドルシニア人材は、学び直しに抵抗感を持つことも多く、研修プログラムなどを一方的に提供するだけでは、主体的なキャリア形成を促すのは難しいです。企業はいかにして効果的に社員の学び直しを支援し、新たなスキル習得やキャリア意識の醸成を促していけばよいのか。その答えの1つが企業が社員に「学び自律」を促すことです。

21世紀におけるキャリア形成とは、自らのキャリアのレジリエンス(回復性、弾力性・しなやかさ)を高めることです。これまで積み上げてきたキャリアが、外的環境の変化などにより崩壊したとしても、新たなキャリアを切り開けるような素地を養うことが重要です。

そのためには、自ら学びや仕事の「Why(なぜやるか)」「What(何をやるか)」「How(どのようにやるか)」を定義して、主体的に取り組む「学びの自律化」が必要です。

「学びの自律化」とは「独学」とも言えます。独学といっても「我流」とは異なります。学びに主体的に向き合うことが独学の本質ですから、必ずしも自分ひとりで知識習得やトレーニングに取り組む必要はありません。外部教育機関を活用したり、専門家に指導を受けたりすることも独学と言えるでしょう。

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