リスクマネジメントという言葉は、皆さんもよく耳にされている言葉でしょう。その定義は多種ありますが、今回は経済産業省が定めた定義をご紹介します。リスクマネジメントとは、「収益の源泉としてリスクを捉え、リスクの影響を抑えつつ、リターンの最大化を追究する活動」と定義されています。
リスクと聞くと、マイナスの側面をイメージしがちですが、リスクはマイナスの影響だけでなく、収益の源泉でもあると定義されています。リスクは事業を行う上で付きまとうものですが、上手く管理することで、収益に結びつけられるし、管理できなければ損失が生じるという考え方に基づいています。
では管理職はどのようにリスクマネジメントを実践していくべきなのでしょうか。このようなリスクを適切に管理するようなリスクマネジメントを実行する上で、管理職に期待される役割は、下記の2点です。
- リスクに基づく損失等の未然防止
- リスクに基づく損失等の再発防止
今回は具体的に管理職が職場でどのようにリスクマネジメントを実践していくか、について記載します。
INDEX
リスクマネジメントと危機管理
リスクマネジメントの全体像は以下の手順で構成されます。
事故発生前
(1) 基本方針の策定
↓
(2) リスクの洗い出し
↓
(3) リスクの評価
↓
(4) リスクの優先順位付け
↓
(5) 実施計画の策定
↓
(6) 実施状況の確認
- 平常時において継続的に実施する対応を指す
- リスクが顕在化しないように管理する
事故発生後
(7) 危機対応組織の構築
↓
(8) 情報管理
↓
(9) 復旧活動
- 事故が発生してから短時間で実施する対応を指す
- 損失や被害を最小限に抑えるように管理する
日本において「リスクマネジメント」という言葉が一般化したのは、阪神大震災後であり、その影響もあり、事故後の対応をイメージされる方も多いことでしょう。現場における対応は、事故の発生前後で大きく異なることから、事故発生前の対応を狭義のリスクマネジメント、事故発生後の対応を危機管理とそれぞれ区分されます。
- リスクマネジメント
平常時において継続的に実施する対応であり、リスクが顕在化しない、事故が起こらないように未然防止や再発防止のために実施する活動です。 - 危機管理
事故が発生してから短時間で実施する対応であり、顕在化した事故の損失や被害を最小限に抑えるために実施する活動です。
リスクマネジメントの全体像
今回は現場管理職が日々の対応をしていただくことで、生産性向上を図ることを目的とし、狭義のリスクマネジメントである下記(1)~(6)ついて記載します。
- 基本方針の策定
- リスクの洗い出し
- リスクの評価
- リスクの優先順位付け
- 実施計画の策定
- 実施状況の確認
(1) 基本方針の策定
リスクマネジメントの最初の手順は、基本方針を作成することです。基本方針は、基本目的と行動指針から構成され、基本目的は何のためにリスクマネジメントに取り組むかを明確にするものであり、行動指針は基本目的を達成するために、職場として何をして欲しいかを示すスローガンのようなものです。
これらを設定することで、何を目的として、何をどのように実施するかを明確にすることができます。
(2) リスクの洗い出し
基本方針を策定することで、以下の3つのメリットを得ることができます。
①組織内外に明確な言葉でリスクマネジメントの取り組みを説明することができる
方針を明確に示すことで、取り組みに対する職場内外の理解が得やすくなります。リスクマネジメントが失敗に終わる要因として、こうした周囲の理解が得られないことが往々にしてあります。そうした事態を防ぐことができます。
こうした方針を明確にすることで、職場内でのリスクマネジメントに対する求心力を高め、職場一丸となった取り組みが実現できるようになります。
②リスクマネジメントに関する共通言語を組織内に作ることができる
リスクという言葉に関して、職場内において各人によって定義が異なり、意識を統一することが難しい場合があります。
そうした際に、リスクとは何か、リスクマネジメントとは何か、その目的は何かを明確にすることで職場内において、共通言語と認識が醸成され、職場全体での取り組みに対する効果を高めることができます。
③組織内にリスクマネジメントに関する意識を定着させることができる
何のためにリスクマネジメントに取り組むかを明確にすることで、社員一人ひとりがリスクマネジメントの趣旨を理解しやすくなります。その結果、職場内のリスクマネジメント意識の向上を期待できます。
(3) リスクの評価
洗い出したリスクに対して対応策を検討するためには、リスクの優先順位づけをして取り組むことが重要です。複数の分野にまたがるリスクを客観的に評価するためには、予め評価指標、評価基準、スケールを設定し、関係者が納得する合理性を持ち、わかりやすく評価する必要があります。
評価指標として、「発生可能性」、「影響度」、「管理の脆弱性」が代表的な例として挙げられます。それぞれの指標について、評価基準および尺度の例を記載します。
各社の目的と状況に合ったものを選択して、リスク評価を実施することが重要です。
▼評価基準とスケールの例
評価指標例 | 評価基準例 | スケールの例 |
---|---|---|
発生可能性(発生頻度) | ● 過去の発生頻度 ● 自己体験、自社や他社での事例 ● 企業の文化や特徴 | ● 高・中・低 ● 月に1回程度・年に1回程度・数年に1回程度 ● 日常的に発生・中程度・ごくまれに発生 |
影響度 | ● 業績(売上・利益)への影響 ● 社外からの評判への影響 ● 経営目標達成への影響 ● 業務遂行への影響 | ● 高・中・低 ● 1,000万円以上・100万円以上・100万円未満 ● 平均経常利益率の10%以上・10%程度・10%未満 ● 全社的な影響・部門的な影響・一部への影響 |
管理の脆弱性 | ● 規程や対応マニュアルの整備度 ● 従業員の理解度 | ● 高・中・低 ● できていない・ほぼできている・できている |
(4) リスクの優先順位付け
評価したリスクをリスクマップに表すことで、複数のリスクを相対的に比較することができ、優先的に取り組むべき事項を整理することができます。
(5) 実施計画の策定
リスクの優先順位付けまで行うと、どのリスクが自社では対応の優先度が高いか、等が明らかになってきます。そして今後は、その対策について具体的な実施事項を考えていきます。
まずはリスクマネジメントを実施していく上で、実施計画が必要です。計画概要の事前説明が不十分であると、中々効果を発揮しなかったり、現場社員の理解を得られない状況に陥ってしまうため、実施計画という形で整理していくと良いでしょう。
ポイントは、「5w1h」で整理することです。
▼実施計画を策定するに当たり整理すべき事項
Why | なぜリスクマネジメントに取り組むか | リスクマネジメント目標 |
---|---|---|
Where | どこで行うか | リスクマネジメント目標 |
What | 何を行うか | 実施事項 |
How | どのように行うか | 実施方法 |
When | いつ始めて、いつ完了するか | 開始日、終了日 ※この期間が決まっていないと取り組みの効果を測定できない |
Who | 誰が担当するか | 担当者 ※担当者名や役割内容を細分化する。 往々にして生じる「私の担当範囲じゃないと思ってました」を未然に防ぐ。 |
(6) 実施状況の確認
「実施計画を策定して実施するまでは行ったけれど、その後の経過確認はできていない」ということも多いです。そのため、予めKPI(成果目標)を立てていくことを推奨します。
計画で立てた期間について、いつまでにどこまで進んでいないといけないかを設定しましょう。その際は、具体的に数値で決めることが重要です。
人事評価と同様に、目標管理にあたっては客観的・定量的に測れるものがよいでしょう。取り組みが遅れていないかなどをチェックする上でもKPI設定は重要です。
▼成果目標の例
項目 | 成果目標 | 測定方法 |
---|---|---|
労働時間管理の徹底 | タイムカードの打刻忘れを0%にする | 達成率 |
ハラスメントリスクの低減 | 職場メンバーの80%に外部研修を受講させる | 受講率 |
反社会的勢力との取引 | 全ての取引先と誓約書を取り交わす | 達成率 |
業務ミスのリスク軽減 | 毎月の課内ミーティングにおいて、発生した業務ミスやトラブルについて原因と対策を共有する | 実施率 |
メンタルヘルス不調リスクの軽減 | 職場メンバー全員と定期面談を実施する | 実施率 |
情報漏洩リスクの低減 | 媒体ごとの管理ルールを策定する | 実施率 |
策定した計画を形骸化させないためには、定期的に実施状況を確認することが重要です。実施状況を確認するためには、成果指標を設定し、その達成度合いを管理することが有効です。
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リスクマネジメントを実施する上で管理職に求められる役割は、未然防止と再発防止を実施することです。
管理職の皆さんには、今職場で生じているリスクを低減させるのか、回避するのか、あるいは別の角度から考え直す必要があるのかを考えていくことが求められます。
そして、それを「誰が」「どのように」「いつまでに」実施していくべきなのかを整理し、明確にし、実施、継続していきます。
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