企業の人事担当者は、新入社員を迎えるにあたり、その後の研修・教育について悩まれる方も多いのではないでしょうか?
今回の記事では、新人研修を作り、運用する人事担当者に理解していただきたいポイント、並びに新人研修のカリキュラム例を、組織人事コンサルタントの立場からお伝えします!
INDEX
社会人基礎力を身につける
新人研修を作る上で、人事担当者は「社会人基礎力」について知る必要があるでしょう。
そのため、社会人基礎力とは何なのか、以下に記載します。
新人研修と社会人基礎力
新人研修には、社会人基礎力をつけるための内容を盛り込む場合が多いです。
社会人基礎力とは、経済産業省が2006年に「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として定義したものです。
学校で学んだ知識だけでは、職場で円滑に仕事はできません。
また社会人基礎力は、企業や業種を問わない、社会人としての基礎力です。実務経験のない新入社員が理解できるよう、ワークやケーススタディ、ロールプレイングを取り入れた研修を推奨します。
大学と社会
大学で学ぶのは「基礎学力」「専門知識」ですが、社会人になると上記2つを活かす「社会人基礎力」が必要です。基礎学力と専門知識だけでは、仕事を円滑に進めることは難しいです。社会人基礎力をつけることで、大学で学んだ知識も活かすことができるのです。
そのため、新入社員には社会人基礎力をいち早く習得してもらい、学生マインド(※)を払拭することが不可欠です。
- 社会に守られている状態
社会人になると社会を支える側になります。社会を支えるとは、所得税や住民税などを納める納税者を指します。 - 価値観の近い人のみと接している状態
社会人になると、様々な人と関わる必要があります。自分の知識や常識が通じない人と接する機会もあり、苦手な人とのコミュニケーションも当たり前になります。 - 組織に対しての責任意識が低い状態
社会人になると、所属する会社や組織、個人であっても屋号を背負って生活をすることになります。責任の重さや影響力が増大するため、トラブルや不利益を招かない自覚が必要です。信頼関係を壊すような振る舞いをしてしまうと、自分個人ではなく会社の責任問題になってしまう可能性もあります。 - 評価基準はテストの結果や努力の状態
社会人になると、どれだけ会社や会社を通じて顧客に貢献できたかで評価されます。結果を残さなければ評価されません。 - 正解が用意されている状態
社会人になると、正解が予め用意されていないことが多くあります。対処するには、自身の思考の力と能力で、最善の答えを創り出すことが求められます。
社会人に必要な3つの能力
社会人に必要な「3つの能力」と、それに必要な12の要素は以下のように定義されています。
- アクション:「前に踏み出す力」
必要なのは、「主体性」「働きかけ力」「実行力」 - シンキング:「考え抜く力」
必要なのは「課題発見力」「計画力」「創造力」 - チームワーク:「チームで働く力」
必要なのは「発信力」「傾聴力」「柔軟性」「情況把握力」「規律性」「ストレスコントロール力」
これらの能力を習得することで、学生マインドから社会人マインドに切り替わり、ビジネスの現場で通用するようになります。
新人研修には、上記の3つの能力を高めるための訓練・トレーニングを盛り込む必要があります。
新卒と中途で異なる「新人研修」
同じ「新人」でも、「新卒社員」と「中途社員(第二新卒を含む)」では、研修を行う目的や実施内容が異なります。新卒採用の場合と中途採用の場合で何が異なるのか、以下に記載します。
新卒採用の場合
新卒社員は、学校を卒業したばかりで社会人経験がないことが特徴です。
そのため、新人研修では入社後の基本的な業務内容は当然ながら、ビジネスマナーなど社会人として欠かせない知識やスキルを習得してもらうことが目的となります。
中途採用の場合
中途社員は、新卒社員と異なり、ある程度のビジネスマナーを身につけられていることや、新卒社員と比較して即戦力になりやすい傾向です。
しかしながら、自社での具体的な業務は把握しておらず、特に全く異なる業界・職種で働いていた場合や前職で新人研修を受講していないなど、様々な人がいます。
そのため、中途社員に対する新人研修は、具体的な業務の把握やスキルの習得、企業理念やビジョンの共有、既存社員とのコミュニケーションを強化することを目的に実施することが一般的です。
新人研修の手法
新人研修の実施においては、様々な手法があります。
- Off-JT(Off-The-Job-Training)
- OJT(On-The-Job-Training)
- グループワーク
- ロールプレイング
- オンライン研修
それぞれの手法について、以下に詳細を記載します。
①Off-JT(Off-The-Job-Training)
Off-JTは、Off-The-Job-Training(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)を略した言葉で、職場外研修を指します。
一般的な座学で行われる内容や社内や社外で行われる研修などがこれに該当します。知識やスキルについて、体系的に学ばせることができる研修スタイルです。
②OJT(On-The-Job-Training)
OJTは、On-The-Job-Training(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の略で、実際に業務を行いながら、知識やスキルを習得する研修を指します。研修は先輩社員によって行われます。
業務に直結する実践的な内容のため、実際の成功や失敗を経験することができ、即戦力に繋げていきやすい方法です。研修を行う立場の社員も、業務の見直しや指導方法を考える必要があるため、更なるスキルアップにつなげられる利点があります。
③グループワーク
数人でグループを作り、協力して共通の課題解決に向けて取り組んでいきます。チームで問題を解決するという経験ができ、コミュニケーションも活発になり、チームワークや協調性を育てることに繋がる利点があります。
④ロールプレイング
実践を模して行われるロールプレイングは、営業職や接客サービス業などで多く用いられる研修内容です。お客様との会話や販売、受注、契約の工程を体験しながら学びます。
実践的ですが、OJTのように実際の現場とは異なり、より体系的に学びにつなげられる利点があります。
⑤オンライン研修
コロナ禍の影響もあり、配信で行うオンラインの新人研修がトレンドになりつつあります。
オンライン研修には、あらかじめ録画された内容を繰り返し学ぶe-ラーニングとライブ配信があり、パソコンやスマホ、タブレットなどを使用して受講できます。利点は、時間や場所にとらわれず研修できることでしょう。社員を一箇所に集めずに実施できるため、研修会場費や社員の移動費を捻出する必要がなく、研修コストを抑えられます。
オンライン研修だと実践的な研修ができないため、技術の習得には向かないことが挙げられます。
研修カリキュラムの作り方
研修で使用するカリキュラムを作成する際には、現場で働く社員の声を基にすることが重要です。
その上でカリキュラムを作る方法を順番に紹介します。
- 現場の声を基に必須スキルをリストアップする
- 現場の声を基にカリキュラムを作成する
- 外部研修の活用も検討する
以下に実践で役立つスキルや、現場での学びが円滑で知識を盛り込むための作成手順を記載します。
①現場の声を基に必須スキルをリストアップする
まず、仕事をする上で必須のスキルをリストにします。その際、現場の声を基に作成することで、実務の習得に適した項目のリストができます。
また、職種や年次ごとに習得が望ましいスキルが明確であれば、育成時の指導内容や評価がしやすくなります。新人本人もスキル向上の目標として利用できるので良いでしょう。
②現場の声を基にカリキュラムを作成する
次に、リストアップした内容を基にカリキュラムを作成します。その際にも現場社員の意見を取り入れながら作ることで、実践で役立つスキルを習得できる研修内容に仕上がります。
また、実践で役立つスキルのリストがあるため、現場社員が自由に意見を出したとしても議論がまとまりやすくなるでしょう。
③外部研修の活用も検討する
研修内容によっては、外部研修を利用した方が効果的な場合もあります。例えば、ビジネスマナーやビジネスライティングといった内容の研修です。
外部教育機関に依頼することで、自社で実施するよりも質の高い研修を実施できる可能性が高くなります。
また、社内での実施では提供できない知識を学べる可能性もあります。さらに準備にかかる手間や時間を削減する効果も見込めます。
外部教育機関は「人を指導・教育するプロフェッショナル」です。研修カリキュラムにおける知識も経験も豊富です。指導力も保証され、効果的な研修を実施することができます。
新人研修のカリキュラム例
上記で述べた内容を踏まえ、新人研修のカリキュラムを作成してみましょう。
「学生から社会人への意識変革」「社会人としての基礎知識の習得」「業務に必要な専門知識の習得」を踏まえたカリキュラムを作成することがポイントです。
以下に具体的なカリキュラム例を記載します。1テーマにつき、2時間~7時間(1日間)かけて実施します。参考にしてみてください。
研修の注意点と研修実施の目的
- 研修の注意点と研修実施の目的を理解する
- 学生と社会人の違いについて考える
- 報酬を得る(給料を得る)ために必要なことを考える
- Off-JT(Off-The-Job-Training)
- グループワーク
- オンライン研修
社会人/企業人としての心構え
- 学生と社会人の違い
- 働くことの意味と役割
- 企業人としての心構えと意識
- 会社組織と社会的責任
- 社会人/企業人としての基本的なエチケットとマナーために
- Off-JT(Off-The-Job-Training)
- OJT(On-The-Job-Training)
- グループワーク
ビジネスコミュニケーション
- 言語的要素/視覚的要素/聴覚的要素
- 3つの要素がコミュニケーションに与える影響と重要性
- Off-JT(Off-The-Job-Training)
- OJT(On-The-Job-Training)
- グループワーク
- ロールプレイング
- オンライン研修
ビジネスマナー
- みだしなみ:社会人として必要な身だしなみ
- 挨拶と返事:あいさつのポイントと気持ちの良い返事
- 表情:第一印象を決める表情とポイント
- アイコンタクト:相手への視線の合わせ方と角度による印象の違いの認識
- 姿勢とお辞儀:会釈/敬礼/最敬礼、シーンによる使い分け方と言葉
- 場所と方向の示し方:丁寧な印象を与える示し方
- 物の受け渡し:使いやすく丁寧にお渡しする方法
- Off-JT(Off-The-Job-Training)
- OJT(On-The-Job-Training)
- グループワーク
- ロールプレイング
言葉遣いと敬語のマナー
- 敬語の基本と遣い方
- クッション言葉の遣い方
- ビジネスに必要な表現方法
- 好感度表現法
- よく使う接遇表現
- Off-JT(Off-The-Job-Training)
- ロールプレイング
- オンライン研修
電話応対のマナー
- 電話応対の心得
- 電話の受け方とかけ方の基本
- 取り次ぎ方の基本
- 電話メモの書き方
- Off-JT(Off-The-Job-Training)
- ロールプレイング
- オンライン研修
訪問のマナー
- 会社の一員であることの自覚
- 訪問時の事前準備
- 訪問の流れと注意点
- 訪問後の対応
- Off-JT(Off-The-Job-Training)
- ロールプレイング
来客応対のマナー
- お客様をお迎えする心構えと事前準備
- ご案内の流れと注意点
- 飲み物の出し方
- Off-JT(Off-The-Job-Training)
- ロールプレイング
席次のマナー
- 上座と下座
- 応接室や会議室の席次
- 乗り物内の席次
- 宴席での席次
- エレベーター内での立ち位置
- Off-JT(Off-The-Job-Training)
- ロールプレイング
名刺交換・紹介のマナー
- 名刺とは/名刺の心得と事前準備
- 名刺の基本的な渡し方と受け方
- 紹介の仕方と順序
- 名刺管理の仕方と活かし方
- Off-JT(Off-The-Job-Training)
- ロールプレイング
ビジネスのルール
- 報告/連絡/相談(ホウレンソウ)の目的と必要性
- 指示命令の受け方と報告の仕方
- PDCAサイクル
- Off-JT(Off-The-Job-Training)
- OJT(On-The-Job-Training)
- グループワーク
- ロールプレイング
- オンライン研修
ビジネス文書・Emailの書き方のマナー
- ビジネス文書の目的と種類(社内文書/社外文書)
- 文書作成の基本ルールと実例
- 報告書等の作成ポイント
- 封筒の注意点
- E-mail文章作成方法と利用法
- E-mailの注意点とメリットデメリット
- Off-JT(Off-The-Job-Training)
- オンライン研修
話の組み立て方・話し方
- わかりやすく論理的な話の組み立て方
- ホールパート法とPREP法
- 話をする時のポイント
- Off-JT(Off-The-Job-Training)
- グループワーク
- ロールプレイング
- オンライン研修
ホスピタリティ
- ホスピタリティとは何か
- ホスピタリティが求められる社会的背景
- 相手に貢献する自分の行動
- Off-JT(Off-The-Job-Training)
- OJT(On-The-Job-Training)
- グループワーク
- オンライン研修
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昨今の新入社員は、真面目な人が多く、教えられたことを理解して行動する能力は高いと耳にします。そのため、教える側が正しい知識と技術を持って接することで、即戦力人財に変わる速度も早いと言えるでしょう。
新人研修を準備する上で「目的」と「ゴール」を設定することが大切です。研修カリキュラムを作成する上で、経営陣や現場にヒアリングを行い、どのような成長が求められているのかを把握しましょう。作成前のヒアリングや目的設定、コンテンツ制作などに取り組むことを正しい手順で進めることで、目的に沿った研修を用意することができます。
「新人研修の用意をするための人員が足りない」「新人研修の準備の時間が取れない」「自社で研修を実施しているが効果が出ていない」という場合には、外部研修を利用するというのも1つの手段です。
入社後数ヶ月は、新入社員が企業で働くための基礎を学ぶに適した時期であり、その後の生産性や現場での活躍に大きな影響を与えます。そのため、ただ研修を実施するだけでなく、研修の目的を明確にし、どのような内容を行うのか検討し、ポイントをおさえた研修を用意しましょう。