昨今の時代の変化の中で、今後どのようなスキルや人材が必要になり、それに対して企業はどのような対応をする必要があるのでしょうか。
人工知能(AI)の活用が一般化する時代に求められる能力として、特に重要だと考えるものは何かを有識者に対して尋ねたところ、「業務遂行能力」や「基礎的素養」よりも、「チャレンジ精神や主体性、行動力、洞察力などの人間的資質」や「企画発想力や創造性」を挙げる人が多かったというデータがあります。
職場だけでなく日常生活においても、過去と比較すると、他者とのコミュニケーションを取らなくても完結できる事が増えました。しかし、チャレンジ精神や主体性、行動力、洞察力などの力は、多様な他者とコミュニケーションの中で育まれます。人工知能が一般化する時代だからこそ、人間だからできることや基礎能力を高めることがより一層求められていきます。
その上で是非活用していただきたい内容が、社員との1on1です。今回の記事では、日本の時代背景を踏まえつつ、1o1の実施を皆様に検討していただけるように、1on1が大切な理由を記載していきます。
INDEX
日本の生産年齢人口
2020年の日本の生産年齢人口は、約7,400万人で、2050年には現在の2/3である5,300万人に減少すると言われております。
国内の生産活動を中心となって支える人口のこと。経済協力開発機構(OECD)は15歳~64歳の人口と定義している。労働力の中核として経済に活力を生み出す存在であり、社会保障を支えている。生産年齢人口に対し、14歳以下を年少人口、65歳以上を老年人口と呼ぶ。
企業に求められていることは、これからの時代に必要となる具体的な能力やスキルを示し、現在の社員および今後の働き手へ伝えていくことです。
また、社会情勢が変わると「求められる能力やスキル」も変化しますので、「求められる人材」の像にも影響があります。例えば、4Gから5Gで通信速度に100倍の違いが生じると、4Gの時代に人間に求められる「情報処理能力」と5Gの時代のそれでは性質が違います。
不確実性が高い時代の中では、その人物が「確固たるスキルがあるかどうか」というよりは、「必要に応じて学び直しを自主的に進められる人物」が求められています。そのため、社員自身が現状や今後の社会情勢の理解を深める必要があり、1on1を通じて内省していくことが求められます。
日本型雇用システムの限界
かつて日本型雇用システムは、大量生産モデルの製造業を中心に競争力の源泉と言われました。日本型雇用システムは、右肩上がりの経済成長の下で、長期雇用を前提に長期的な視点で人材育成を行い、組織の一体感の醸成や企業の特殊的な能力の蓄積に寄与しました。また、長期雇用を前提として定着した新卒一括採用により、多くの学生が卒業後に就職できる傾向があり、若年失業率は低い水準に収まるなど、社会の安定につながっていました。
しかし、1990年代からは、日本型雇用システムの限界が指摘されてきました。
労働者にとっての「三種の神器」と言われている「終身雇用」「年功序列」「企業別組合」という3つの制度に支えられてきた雇用システムのこと。
◆年代ごとの日本型雇用システムと経済環境
年代 | 国内経済 | 人事労務管理 |
---|---|---|
1946年~1960年代 | 輸出による成長 | 職工身分制度が労使協調で緩和 |
1961年~1970年代 | 大量生産 | 資格制度 |
1971年~1990年代 | オイルショック 円高 | 職能資格制度 |
1991年~2000年代 | バブル崩壊 デフレ | 目標管理制度 コンピテンシー評価 複線型人事制度 役割等級制度 |
2001年~2020年代 | 海外シフト | グローバルグレード 定年延長 |
2021年~ | 事業構造変化 コロナ禍不況 | 同一労働同一賃金 働き方改革 テレワーク |
雇用の安定は、生活の安定を通じて社員と企業の双方にメリットをもたらします。労使の合意の下に、男女ともにワーク・ライフ・バランスを実現しながら社員として働き続けることができる環境整備や、賃金・処遇制度の運用に向けた取り組みが企業にも求められます。
そして、企業が変化することで社員各自が個人の行動目標を設定して、日々の細かい進捗を確認することや成長を実感するためにも、1on1は必要です。
日本の中小企業・小規模企業者の課題
日本の中小企業・小規模企業者における経営課題も少し見ていきましょう。現在、求職者1人に対する求人件数は1を超え、人の確保が困難な求人難の時代を迎えています。特に中小企業・小規模企業者にとっては、若者の強い大企業志向、大企業との賃金格差、高い離職傾向等によって、より一層厳しい状況です。
事業を拡大するための人材を確保できない企業もあれば、いまある事業を維持していくための人手を確保できず「人手不足倒産」に追い込まれる企業もある状況です。
◆中小企業・小規模企業者における経営課題
順位 | 経営課題 |
---|---|
1位 | 必要な人材の不足 |
2位 | 従業員の育成、能力開発 |
3位 | 人手不足 |
4位 | 営業力、販売促進ノウハウの不足 |
5位 | 新技術・新製品・新サービスの開発力 |
中小企業・小規模企業者における経営課題の上位3位には、いずれも「人材」が関係していることが分かります。
人手不足対応のための5つのステップ
中小企業・小規模企業者における人手不足対応の考え方として、人手不足対応の200以上の好事例の分析から、中小企業・小規模企業者が人手不足に対応する際の視点として、次の5つのステップが重要であることが指摘されています。
- 経営課題を見つめ直す
- 経営課題を解決するための方策を検討する
- 求人像や人材の調達方法を明確化する
- 求人・採用/登用・育成(人材に関する取組の実施)
- 人材の活躍や定着に向けたフォローアップ
ステップ1.経営課題を見つめ直す
人手不足という現状から、いったん視点を変えた上で、経営課題を見つめ直します。
- 将来どのような会社にしていきたいのか。
- 今の求人は本当に必要なのか。
- 求人は自社が勝ち残ることにつながるのか。
- 現在のビジネスを同じ事業規模で続けるのか。
- 人の確保ではなくビジネスモデルの転換や受注方法の見直しにより、社員の負担を減らして利益を追求できないか。
経営課題や、自社の経営理念、ビジョンを見つめ直し、人手不足の理由(人員補充か拡充か)を考えることが重要です。
1on1を通じて社員各自が、自分の担当業務における効率化の見直しや、周囲との連携方法を強化するなど、考える機会をつくります。
ステップ2.経営課題を解決するための方策を検討する
課題解決に必要な業務を、固定観念を払しょくして見つめ直します。
- 「力仕事は若い男性」「フルタイムで働くことが前提」などの固定観念を取り払い、重労働の作業を切り分けることで、女性や高齢者でも作業できる可能性はないか。
- 業務を細分化し、短時間勤務で行える業務にすることで、時間に制約がある社員も作業できる可能性はないか。
- 業務のどこにムリ(設備や人への過負担)、ムダ(非効率・過剰な要素)、ムラ(仕事量・負荷のばらつき)があるのか。また、作業工程の改善や不要な業務の廃止によって、現社員で対応できる可能性はないか。
限られた経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報・時間)をどう「やりくり」して、経営課題を解決するかを考えることが重要です。
ステップ3.求人像や人材の調達方法を明確化する
経営課題の解決を人で行うと決めたら、業務に対する求人像を明確にし、どのように人材を確保するか、その方法を検討します。
- 「この業務は経験が必要」「この業務はフルタイムの男性」など、これまでの慣行で求人の幅を狭めている可能性はないか。
- 「男性・フルタイム」から「男性・女性・高齢者/短時間勤務可」に広げられる可能性はないか。
- 入社後の研修を用意し、採用時は経験の有無を問わないことにすれば、人材を確保できる可能性はないか。
- フルタイムの正社員にこだわらず、多様な雇用や柔軟な働き方に目を向けることで、正規雇用では確保が難しい高いスキルの人材を副業・兼業で活用できる可能性はないか。
- 必ずしも外部から新たに採用(外部調達)する必要はなく、社内人材の登用・育成(内部調達)で対応できる可能性はないか。
業務内容や求人要件等を明確化し、人材の調達方法(外部調達か、社内での登用・育成か)を考えることが重要です。
1on1を通じて、部下と上司の信頼関係が構築されていくことで、上司が知り得ていなかった部下のスキルの発見につながる場合もあります。
ステップ4.求人・採用/登用・育成(人材に関する取組の実施)
働き手の目線に立って自社の魅力を発信する方法を見直します。
- 将来にわたり働き続けられるかという不安を持っている女性の働き手に対し、社員の活躍やロールモデルを発信することで不安を取り除ければ、採用につながる可能性はないか。
- 若手人材には年齢の近い社員が、外国人材には外国人の社員が説明することで親近感や関心を高められる可能性はないか。
- 社内の様子をSNSで発信したり、工場見学を受け入れたりするなど、企業に対する理解を深める取り組みができる可能性はないか。
勤務条件だけでなく、社員のライフスタイル、企業の課題など、働く側の目線に立った魅力発信が重要です。
また、ターゲット層に合わせた多様な伝え方を考える必要があります。
ステップ5.人材の活躍や定着に向けたフォローアップ
採用した人材や社内人材の活躍や定着に向けて、フォローアップ(能力開発や職場環境の見直し等)を行います。
- 新卒社員だけでなく、中途採用の社員に対しても、入社後に活躍できるようフォローする。
- 知識の習得に限らず、社員同士のコミュニケーションの場を作る。
- 人材の受入れに当たり既存の社員の理解を促す。
- 育児、介護との両立のための柔軟な勤務制度を作る。
- 残業時間の削減や休暇取得の促進等に取り組む。
働き手が最大限能力を発揮しやすい職場環境を追求することは、人材の確保とともに社内のコミュニケーションの活性化、社員のスキルやモチベーションの向上、業務効率の向上など、好循環にもつながるため大変重要です。
1on1を通して上司が部下の話を通して上司が部下の新しい一面に気づくことがあります。部下が自分自身の内容を通じて行動目標の再設定につながることがあります。
社員との1on1の中で人間的資質を向上させる
日本の生産年齢人口では、今後「確固たるスキルがあるかどうか」というよりは、「必要に応じて学び直しを自主的に進められる人物」が求められていることを述べました。
日本型雇用システムの限界では、今後社員に意欲と能力を発揮してもらうためには、労働環境の見直しや賃金・処遇制度の見直しが必要であること、つまり、社員に変化を求めるには、企業も変化しなければならないことを述べました。
日本の中小企業・小規模企業者の課題では、中小企業・小規模企業者における経営課題の上位3位には、いずれも「人材」が関係していることを述べました。これらを踏まえ、「チャレンジ精神や主体性、行動力、洞察力などの人間的資質」や「企画発想力や創造性」を高めるために、1on1を実施することを推奨します。
新しい習慣を取り入れて継続することが重要
自社の強みを最大限発揮し、社員が思い切りチャレンジできるような状態をつくるには新しい習慣を取り入れること、そして継続することが重要であると考えます。
一次的なものではなく継続的に続けられる制度であり、社員の意識や行動を促すためのコミュニケーションを主軸にした施策、それが1on1です。
コミュニケーションは感覚的なものであるため、1on1のようにある程度フレームワークを持つことで汎用性の高いものになります。
1on1を実施することは管理職の教育にも繋がる
管理職の教育にもつながります。実際に1on1を実施した管理職からは、「部下を知っているつもりで実際はよく知らなかったということに気づいた」「部下の新たな一面や特技・能力に気づいた」という反応もあり、1on1が部下と上司の自立的な気づきと成長の機会になるのです。